13月の狩人








第二部







20








ことり、と物音が聞こえた気がして、テレーゼはハッと目を覚ました。

カミルとレオノーラの様子を看ているうちに、眠ってしまったようだ。窓の外を見れば、明るかった外はもうすっかり暗くなってしまっている。紅塗月らしい紅葉も、今は黒い葉にしか見えない。

そっと、視線を落とす。カミルとレオノーラは、未だに目を覚まさない。疲れたようにため息を吐いて、テレーゼは立ち上がった。

その時。また、ことり、という音が聞こえた。テレーゼは思わず音のした方を振り向き、そしてギクリと体を強張らせる。

暗い中でも、何故かはっきりとわかる。漆黒の影が、そこにいた。

その影に、テレーゼは一度だけ遭った事がある。だから、それが何なのかはすぐにわかった。

「十三月の、狩人……!?」

何故ここに十三月の狩人がいるのだ。今はまだ紅塗月。氷響月にすらなっていない。

そんなテレーゼの疑問に答えるかのように、狩人がどこかから、白い筒を取り出した。そして、それをテレーゼに向かって放り投げる。

それは床に落ちると、ぽすりと柔らかい音を立て、ころころとテレーゼの足下に向かって転がった。それにテレーゼが気を取られているうちに、狩人はどこぞへと姿を消してしまう。

辺りを警戒しつつテレーゼは床に転がったそれを拾い上げる。音の通り、柔らかい。

それは、丸めた羊皮紙だった。広げてみるが、流石に暗くて何かが書いてあるのかどうかもわからない。

テレーゼは、腰に差している二本の杖のうち、少し太い杖を手に取った。二年前にカミルが売ってくれた、光を発する魔道具だ。何も考えずに使えば強烈な光を発して蓄えてある魔力を使い切ってしまうが、上手く調整すればランプの代わりにもできる。

それを使って柔らかい光を灯し、テレーゼは改めて羊皮紙を見る。そして、顔を顰めた。

そこには、何者かの名前がいくつも書き連ねてあった。何人分……いや、何十人分と書かれている。名前の他には、何も書かれていない。

だが、それだけでテレーゼは、何が起きているのかを悟った。ひょっとしたら、テレーゼに渡る物だからこそ、名前しか書かれていなかったのかもしれない。

十三月の狩人が、十三月どころか氷響月ですらないのに現れた。そして、二年前には無かった、名前がいくつも書き連ねてある羊皮紙。ここから導き出される答えは、一つしか無い。

「私に……代行者になれって事ね」

以前、レオノーラが言っていた。十三月で誰を獲物とするかは、代行者に一任されると。だが、これを見る限り……どんな人物でも好きなように選ぶ事ができる、というわけではないのだろう。狩人に指名された中から、好きなように選ぶ事ができる、という意味だったのだ。

渡された羊皮紙は、獲物のリストだ。この中に名を書かれた者のうち、一人でも殺す事ができれば、テレーゼの願いがきっと叶う。逆に一人も殺せなければ、恐らくカミルとレオノーラのように……。

だが、いくら何でもこれは無茶だ。名前がわかっていても、それがどこに住んでいて、どんな顔なのかがわからなければ狙いようが無い。

顔をしかめてリストを眺めていたテレーゼだが、やがてその顔が更に険しくなった。

リストに載っている名は、知らない名ばかりだ。だが、一人だけ。たった一人だけ、知っている名がある。

テレーゼは、思わず両手に力を込めた。リストがぐしゃりと、音を立てる。

皺だらけになったリストを握りしめながら、テレーゼはしばし小刻みに震えた。そして、苦しそうに息を吐き出すと、悔しさを滲ませた声で呟く。

「どうして……」

どうして私が、代行者なの?











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