13月の狩人








第二部







14








休憩を何度も挟みつつ、歩く事一日。東の沃野に着く頃には、昼を大分過ぎていた。東の沃野の出入り口からまた少し歩いて、ユリウスの家へと辿り着く。

「ただいま、アガーテ。お客さんを連れてきたよ」

ユリウスが戸口から中に向かって声をかけると、奥から「えぇっ」という声と共に足音が聞こえてきた。そして、すぐにユリウスと同じ年頃の女性が現れる。

先ほどユリウスが、アガーテ、と呼んでいたのはこの女性の事だろう。色々な状況を鑑みるに、彼女はテレーゼの母親だろうと、フォルカーは思う。鑑みなくても、目付きや雰囲気がそっくりだ。

「ちょっと、ユリウス! お客さんを連れてくるのは良いけど、事前に手紙か何かで教えてって前に言ったでしょ! 寝床とかご飯の用意をしなきゃいけないし、掃除だっていつもより念入りにやりたいんだから!」

「ごめんごめん、昨日道端で会ったばかりで、手紙を出そうにも出せなかったんだ。テレーゼみたいに魔法の修業をしていれば、何か良い解決方法があったのかもしれないけど」

「魔法だって万能じゃないでしょ。ユリウス、あなたテレーゼが帰ってきた時に、そんな言い方しちゃ駄目よ? あの子を困らせる事になるわ」

そう言って一しきり夫を叱り付けてから、アガーテはフォルカー達の存在に気付いたらしい。「あら」と言ってバツの悪そうな顔をした。

「もう来ているんだったわね。みっともないところを見せちゃって、ごめんなさいね」

「あ、えぇっと……」

先ほどのユリウスとアガーテのやり取りに唖然とした直後で、何と言った物か言葉が出てこない。どうやら、マルレーネも同様のようで、ぽかんとした顔をしている。

そんな二人の――特にフォルカーの顔をまじまじと見て、アガーテはにっこりと笑った。

「あぁ、なるほど! あなた、フォルカー君でしょう? うちのテレーゼと仲良くしてくれてる!」

言われて、フォルカーはこくこくと無言で頷いた。しかし、何故ユリウスにしろアガーテにしろ、見ただけでフォルカーだとわかるのか。

「……ちびすけ、俺の顔に、〝テレーゼの友達のフォルカーです〟とか書いてあるか?」

「いえ、書いてないです……」

マルレーネが首を横に振り、フォルカーは「だよな……」と言って首を傾げる。すると、ユリウスが笑いながら背に負った荷物を床に下ろした。

「じゃあ、そろそろネタばらしといこうか」

そう言うと奥へ姿を消してしまう。その間にアガーテはフォルカー達を家の中へ招き入れ、食堂から見える場所にある竈で湯を沸かし始めた。

そして、テーブルの上にお茶と茶菓子の準備ができた頃。ユリウスが、一枚のカードを持って戻ってきた。

「これこれ。奥の方に大事にしまってたから、出すのにちょっと手間取っちゃったよ」

そう言って差し出されたカードに、フォルカーは既視感を覚えた。だが、どこで見たのだろうか。

カードにはテレーゼの名前が彼女の筆跡で書かれているが、それ以外は何も書かれていない。中身が無いので、何のカードなのかも見当がつかない。

首を横倒しにして唸るフォルカーを見て、ユリウスがおかしそうに笑いながらカードに書かれたテレーゼの名を指で撫でた。すると、文字が光り、カードの上に霧のような物が発生する。

そして何と、そこにはテレーゼの姿が現れたではないか。テレーゼだけではない。その後ろに、フォルカーやカミルの姿まである。三人とも、今の姿ではない。三年ほど前の服装に、今よりも幼い顔付きをしている。

「これ……」

「そう。三年前にテレーゼが送ってくれた、送り主の姿を見せてくれる魔法の新年カードだよ。この……後ろにいるカミル君が作ったんだったかな?」

ユリウスが頷いてカミルを指差したその時、霧の中に見えるテレーゼが、緊張した面持ちで口を開いた。

「父さん、母さん。新年、おめでとう」

その固い口調にも聞き覚えがあって。フォルカーの脳裏に、三年前の記憶が蘇った。










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