いずれは








「シン……少し、良いですか?」

テントの外から聞こえてくる声に、シンは首を傾げた。

「アスト? 珍しいね。入っても良いよ」

許可を得たアストがテントに入ってみれば、そこにはシンだけではなくチャキィもいる。

辺りにお手玉が散乱しているので、二人で暇潰しに遊んでいたのだろう。

「どうしたの?」

シンに問われて、アストは「実は……」と切り出した。

「シンに……お願いが、あります……」

「お願い?」

シンが首を傾げると、アストは懐から一冊の本を取り出した。

「セツファンで……ウィス達を、待って、いた時に……借りたの、ですが……色々と、あって……返しそびれて、しまいました……」

「それで、全部終わった後私に返しておいて欲しいと?」

シンに問われて、アストはこくりと頷いた。

成程、確かに全てが終わった後にアストが再びトルスのセツファンへ行ける可能性は極めて低い。

ならば、トルスの誰かに託しておいた方が賢明だろう。

「でも、何で私? ホースならレイホワへ帰るまでに一度はセツファンへ寄るよ?」

「汚し、そうだから……と、断られ……ました……」

「なるほど……」

妙に納得しながら、シンはアストから本を受け取った。

そして、「へぇ」と呟く。

「相性占いの本?」

「へぇっ! アストさん、そんな本も読むんですねぇ。ちょっと意外です」

チャキィが興味深げに本を覗き込む。

アストは、少しだけ恥ずかしそうに言った。

「あの……普段、読むような……本が、セツファンの……図書館には……」

「無かったんですか?」

再び、アストはこくりと頷いた。

「まぁ、セツファンはレイホワへ行くための休憩場所みたいな町だしね。ミャコワンやサブトの図書館の蔵書みたいな本を求めるのは無理だよ。暇潰しに読む娯楽系しか置かないスタンスみたいだし」

「そのよう……です……」

アストの肯定を確認してから、チャキィは更に興味深そうに本を見る。

「あの。相性占いって、どうやるんですか?」

「この、本の……場合は、名前の、文字から……割り出す、ようです……」

「みたいだね。……けど、男女の相性しか載ってないみたい。……そう言えば、チャキィの性別って、どっち?」

そう言えば、未だにわからないままだった。

「秘密ですー。芸の一助とするためですよ!」

「じゃあ、申し訳無いけどチャキィと誰かで相性占いはできないね……」

シンの言葉に、チャキィは「あーっ!? うー……」と唸り始めた。

芸を取るか好奇心を取るかで葛藤しているようだ。

「あ、因みに、シンさんとアストさんで占ったらどうなるんですか?」

最終的に、芸が勝ったらしい。

「……やってみる?」

シンが問い、アストが「では……」と頷いて紙を取り出した。

名前を綴り、本を開いて読み解いていく。

「……」

「……」

結果が出たらしい。

二人は黙り込んでいる。

「……どうしたんですか?」

チャキィが問うたのが合図であったように、二人は紙をしまい込んだ。

「まぁ、占いは占いだよね」

「当たるも八卦、当たらぬも八卦……と、言います……」

どうやらあまり良い結果では無かったらしい。

これから協力して戦おうという時に、相性が悪いのは笑えない。

「けど、折角だし前衛メンバーとの相性は確認しておきたいかも。ウィスともリアンとも、一緒に戦った事は無いし……」

合わなかったら今から入念な打ち合わせでもするつもりだろうか。

そんな事を考えながら、アストは再び紙を取り出し、スペルを綴っていく。

「えーっと……まずは私とウィスの相性は……
  良き友人として、性別関係なく仲良くできる相性です。
  お互いを尊重しあい、向上し合うことが出き、いつまでも友情は続くでしょう。
  友情が続くうちに、2人の周りにはふたりだけでなく友情の輪が広がっていくはずです。
……悪くない結果、かな?」

「……はい」

シンの言葉に、アストが頷いた。

少しだけ悔しそうだ。

「因みに、リアンさんとはどうなんですか?」

チャキィに問われて、二人は再び占い始める。

「……あ」

「同じ、結果……ですね……」

「同じですか?」

チャキィが首を傾げると、アストが頷く。

「どうやら……スペル、から……出る、秘数が……二人とも、同じ……らしい、です」

「へぇ……ところで」

楽しそうに頷いてから、チャキィはくりんと視線を上げた。

目が少しだけ怪しく嗤っている。

「男女の相性占いなんですから、当然恋愛の相性もあるんですよね?」

「……」

「……」

チャキィの言葉に、二人は黙り込む。

そんな二人に業を煮やしたのか、チャキィは勝手に結果を覗き込み、該当するページに目を遣った。

「……あ」

「へへーんっ。ウィス先生に読み書きを教わってますから、読めないわけじゃないんですよーっ!」

言いながら、チャキィは本にゆっくりと目を通していく。

そして、次に本から現れた目はキラキラと輝いていた。

「いつも仲良し、親友カップル。なーんて書かれてますよっ!?シンさん、ウィス先生ともリアンさんとも仲良しカップルになれるみたいですよ!? どちらかとカップルになったら教えて下さいね! ご飯片手に観に行きますから! あ、でもウィス先生とリアンさんなら、むしろ三角関係でも見ている方はドキドキして面白いかも……」

「……チャキィ?」

「……冗談ですよ」

睨まれたような気でもしたのか、はしゃいでいたチャキィは大人しく話題を引っ込めた。

その様子に苦笑しながら、シンはアストに言う。

「とにかく、本は預かっておくよ。あと、今日はもう遅いから……」

「はい……チャキィ、行きましょう」

「はーい」

アストの言葉に、チャキィは渋々頷いて立ち上がった。

テントを出て、チャキィはアストに問う。

「それで……どう思いますか、アストさん?

シンさんと、ウィス先生かリアンさん……カップルになり得ると思います?」

「……思い、ません……」

アストの答に、チャキィは「あれ?」と首を傾げた。

「そうですか? ボクはアリなんじゃないかなって思うんですけど……」

「例えば……チャキィは、トルスで……好きな、人が……できたら……トルスに……残り、ますか?」

問われて、チャキィは「あっ……」と呟いた。

その様子に、アストは頷く。

「いずれ……別れの、時は…………来ます。シン達も、それは……わかっている、筈です。ですから、例え……恋愛感情が……芽生えたと、しても……」

「くっ付く事は無い、ですか……」

チャキィの寂しそうな言葉を耳にしながら、アストは空を見上げた。

今は、トルスの上空にあるラース。

今は、共に旅をする仲間達。



だが、いずれは別れの時がやってくる……。










Fin




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