精霊水晶





―拾―





「…………?」

目を開けると、そこはアスファルトの舗装が崩れかけた道だった。横の田んぼでは、相変わらず猛暑で弱った蛙が、雨乞いでもするかのようにゲゲコ、ゲゲコと弱々しい力で鳴いている。遠くには人家の灯りも見え、電線が風に煽られてゆらゆらと揺れている。

「戻ってきた? それとも、夢だった……?」

幸多は、首をかしげながら辺りを見た。どこも壊れていないし、何かが増えているわけでもない。浦島太郎のように未来に行ってしまったという事は無さそうだ。それに、アスファルトや電線があるから、ここが妖界という事も有り得ない。

あまりに妖界に行ったり八岐大蛇と対決した実感が無く、幸多は全て夢だったのではないかと、ぼりぼり頭を掻いた。すると、何か頭に当たる物がある。

「?」

何だろうと思い、手のひらを見てみる。すると、そこには…………

「……夢じゃ、なかったんだ……」

手の平の上の物を見つめながら、幸多は呟いた。そこでフッと、視線を感じて振り向いてみる。そこには、人の姿をした者は誰もいない。だが、人の姿をしていない者ならいた。

野狐と、犬と、カラスとムカデと……普通なら見られないような取り合わせの動物達が、こちらをジッと凝視している。

「無事だったんだ……」

幸多はホッとしながら呟いた。その後カラスが、口に蛇の死体をくわえているのに気付いた時にはギョッとしたが。

蛇をくわえたまま、カラスはシッシッとするように羽を動かした。まるで「早く帰れ」と言っているようだ。そこで幸多は、既にとっぷりと日が暮れている事に気が付いた。華欠左衛門に連れられて妖界へと旅立った時から、何時間くらい経っているのだろう? 夕飯は、とっくに無くなってしまっているかもしれない。

幸多は、怒られるのを覚悟しながら立ち上がった。そして、そこにいる犬に目配せする。

大丈夫、言い訳したりしないよ。華欠左衛門についていくのは俺が自分で決めた事だから、帰ってお母さんに素直に怒られてくる。それで、ごめんなさいって謝るよ。

そう言ったつもりだが、通じたかどうかはわからない。だが、犬は多少満足そうな顔をしている気がする。

それを確認し、幸多は動物達に背を向けた。

家に帰ろう。お母さんに……あと、多分お父さんにも怒られるだろうけど。。自分で決めた事だから、怖くない。自分で「これが正しい」って思ってやった事だから。

妙にすっきりした気分で、幸多はその場から駆け出した。その場にいた動物達は幸多の姿が見えなくなるまで見守り続け、見えなくなるとその姿は揺らめいたと思うと同時に消えてしまった。








(了)






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