未来から来た魔女











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「どういう事だ!? 昨日は確かに、今日サビドゥリア鉱石が入荷すると……」

「確かに、入ったよ。けど、入って一分で完売しちまったんだ」

声を荒げるレクスに、鉱石を扱う店の主人はうるさそうに手を振った。

電話やメールで取引をできる店は、軒並み完売していた。それでも何とか入手できないかと足を棒にして歩き回り、やっと見付けたこの店に、翌日サビドゥリア鉱石が入荷するという話を聞いた時には、報われた気がした。

なのに、そのサビドゥリア鉱石はすでになくなっていると言う。

「何せ、サビドゥリア鉱石は減少の一途を辿っているからな。入荷しても、あっという間に売り切れちまうんだよ」

「一分で完売だと? 私は今日、この店が開店する前から、店の前で待っていたんだぞ。私以外に待っている客はいなかった……なのに、なぜ完売なんかするんだ?」

「だから、予約分だよ、予約分。予約分で全部はけちまったのさ」

そう言って店主は、ちらりと後を見た。そこには大きな棚がすえられ、その一番上にサビドゥリア鉱石の塊が見える。

「予約だと? だが、昨日私が予約を申し出たら、予約は受け付けていないと……」

「そりゃあ、普段は予約なんか受け付けてねぇけどさ……」

困ったように、店主は目を泳がせた。

「けど、あんな額の予約金を払ってくれるなんて言われたら……ねぇ?」

「……!」

レクスは絶句した。今まで知らなかったわけではないが、改めて、金の力という物を見せ付けられた想いだ。金さえ積めば、店のルールも変わってしまう。

「……頼む、半分……いや、三分の一で良いんだ。思ったほどの量が入荷しなかった事にして、私にそのサビドゥリア鉱石を分けてくれ! それだけあれば、私は……」

「……そりゃあ、そういう事もできなくはないけどさ……」

ぽりぽりとはげあがった頭をかきながら、店主はレクスの顔をジッと見た。

「あんた、金は払えるのかい? 予約してくれているお客様は、このサビドゥリア鉱石をこっちの言い値で買ってくれると言っているんだ。それを三分の一でもあんたに分けるとなると、あんたに払ってもらう金額は……」

言いながら店主は端末を操作し、レクスに金額を提示した。その額に、レクスの顔は蒼ざめる。

「……無理だろ? あんたには悪いけど、今回は運が悪かったと思って諦めてくれよ。な?」

憐れむような目で見てくる店主の両肩を、レクスは勢い良くつかんだ。そして、すがるような声で訴える。

「サビドゥリア鉱石が手に入れば、今開発している機械が動くようになるんだ! それが実用化されれば、確実に世界中の人々が求めるようになる! そうなれば、今そこに映っている額の何倍……いや、何十倍もの金が入ってくる。この代金は、その時にきっと払う! だから……」

「そう言う科学者は多いんだけどねぇ……。悪いけど、うちだって裕福なわけじゃないんだ。入ってくる保証の無い金の事を言われても……」

がくりと、レクスはうなだれた。恐らく、これ以上は食い下がっても意味が無いだろう。

歯を食いしばり、レクスは店の出入り口へと向かう。店を出る時、立派な身なりをした男とすれ違った。

男はカウンターに近付くと、店主と何やら話を始める。すると、店主は顔に喜色を浮かべながら、棚から取り出したサビドゥリア鉱石を男の前に差し出している。

その光景を目に焼き付け、レクスはとぼとぼと店を後にした。

家に帰ってみれば、スフェラの姿は無い。テーブルの上に、温めるばかりになっている料理と、遅くなる旨を記したスフェラのメモ。そう言えば今日は、大学で教授の資料整理を手伝うアルバイトをすると言っていた。

妻がこの世を去ってから、スフェラには苦労をさせてばかりいる。勉強の合間に家事、レクスの研究や開発の手伝い、そして家計を支えるためのアルバイト。

文句ひとつ言わず、嫌な顔もせずにこなしているが、スフェラだって年頃の娘だ。友達と遊んだり、恋人を作ってデートをしたりしたいだろうに。……もっとも、そんじょそこらの男が気安く近付いたりしないよう、リッターをスフェラに付けているわけだが。

どうしてあの娘が苦労をしなければいけないんだろう、とレクスは料理を温めながらため息をつく。

あの時、絶対に幸せにしてやろうと心に誓ったというのに……。








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