ホットミルクを君に
(お題→雪と祭りと温かい飲み物)










こんこんこんこん

ゆきんこ こんこん

こんこんこんこん

しあわせ こんこん

みんなと あそぼう ゆきんこ こんこん

しあわせ はこぶ ゆきんこ こんこん

こんこんこんこん

こんこんこんこん



雪が舞う夜闇の中、ボールのように丸い形をした提灯をぶら下げた棒を片手に、彩り鮮やかな厚手生地の着物を纏った子ども達が歌いながら踊るように駆け回っている。

こん、というのは、この地域では「来い」という意味を持っている。

この町は山に囲まれている事もあり、冬は寒い割に、雪が降らない。だから、雪はとても珍しく、雪が降ると良い事があるという言い伝えまであるほどだ。

だからこの町では、今でも雪が降り始めるとおもむろに祭が始まる。色鮮やかな着物を纏った子ども達が、提灯片手に歌い、踊り、笑う。そうする事で、子どもの姿をしているという雪の精……雪ん子がこの町を楽しそうだと感じ、幸せを持ってやってきてくれる事を願うお祭りなのだという。

しかし、祭と言っても、雪が降るほどの寒さ。しかも、雪が降らないと始まらない祭だ。屋台やお囃子の出番は無い。

ただひたすら、子ども達が楽しげに歌い、町中を駆け巡る。それを大人が微笑ましく見守る。そんな、つつましやかな祭だ。

道行く大人達は、楽しげな子ども達を見て微笑み、そして視線を戻すと家路を急ぐ。

そんな大人達の中に、同じように寒さに耐えながらも子ども達を眺め、そして家に入っていく男女が一組。どうやら夫婦のようで、男は女の、女は男の頭や肩に積もった雪を、玄関先で笑い合いながらはたき落としている。

やがて二人は家に入り、暗かった窓にポッと明かりが灯った。





# # #





さて、灯油ストーブに火が点いた事を確認したら、妻が二階で着替えている間に、僕は台所へ行く。

平たくて小さな鍋を探しだし、冷蔵庫からミルクを出して……カップ一杯分で良いか。ストーブの前にいたら、温まりそうだし。

鍋にカップ一杯分のミルクを入れて、戸棚からは妻お気に入りのマグカップとスプーン、それに蜂蜜。それだけを持って、僕はリビングへと戻る。

ミルクの鍋を灯油ストーブの上に置いて、ゆっくりと温め始めた。温めている間に蜂蜜の瓶を開封して、スプーン一杯分の蜂蜜をすくい出し、ミルクに加える。そして、スプーンでかき混ぜながら、ゆっくりと温め続ける。ほんのりと甘い香りが、鼻腔をくすぐり始めた。

ふんわりとした香りに思わず顔を綻ばせながら、僕は窓の外を見る。

暗い闇の中、白い雪と、提灯の丸い明かりが、ぼんやりと浮き上がっていた。





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さて、着替えていたら遅くなっちゃった。リビングはもうあったまってるかな? 早くのんびりしたいな。

けど、その前に私は台所に行く。

あれ? なんか、鍋が足りないような……ま、いっか。あとから探そう。鍋を一つコンロに置いて、冷蔵庫からミルクを出して……カップ一杯分で良いか。コンロの前にいたら、温まりそうだし。

鍋にカップ一杯分のミルクを入れて、弱火で温めている間に戸棚から旦那くんのお気に入りのマグカップを取り出す。

そうそう、と思い出して、冷蔵庫からチューブのおろし生姜を取り出した。生姜を入れると、旦那くん、あったまるって喜ぶんだよね。味の癖が強くなりそうな気がするんだけど……美味しいのかな? あとで一口貰ってみよう。

生姜を入れて温めると、ふんわりとした中に微かに刺激のある香りが、鼻腔をくすぐり始めた。その香りだけで、なんだかぽかぽかと体の中から温まってきた気がする。

コンロの横の出窓から、子ども達が歌う歌声が微かに聞こえてきた。





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リビングで顔を合わせると、二人は互いににこりと笑い、そしてマグカップを差し出しながら同時に口を開いた。

「外は寒かったね。あったかいホットミルクはどう?」
















(了)














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