花火を夢見て











「それじゃあ、出席番号一番の人から順に、夏休みの自由研究を発表してください」

 夏休み明けの教室。教師の言葉に、室内はざわついた。

 自信満々に「早く自分の番にならないかな」などと言う者。自由研究を忘れてきたらしく、どうしようとおろおろする者。人前で発表をする事自体が嫌でお腹が痛いなどと言い出す者。

 そんな感じで賑やかな発表を続けていくうちに、とある男子児童の番が巡ってきた。

「ふっふーん! 俺のはすごいぞ! お前ら、びっくりして腰抜かすなよ!」

 余程自信があるのか。鼻息荒くふんぞり返っている。クラスメイト達の期待は、高まらざるを得ない。

 興味を示した教師に何をやったのか、と問われ、児童は誇らしげに言った。

「花火を作ってきました!」

「……花火?」

 予想外の答えであったらしく、教師は思わず聞き返す。それに対して、児童は「そう、花火!」と頷いた。

「自分で花火を作ってみたくて! 家にあった花火を分解して、その火薬を使って作りました!」

 そう言って鞄の中から取り出したのは、一見すると丸めただけの紙。よく見ると、ちょろりと凧糸が垂れている。

 児童は、鞄のポケットからライターを取り出した。父親の物を借りてきたものだろうか。

「今から、火ぃつけて窓の外に投げるから! 一瞬だから、ちゃんと見ててくれよ!」

 クラスメイト達に言いながら、児童はライターの火打石をカチカチと鳴らしている。

「見てて、じゃない! やめなさい!」

 教師が悲鳴のような叫び声を発する。別の男子児童が、何を思ったか「やめろ!」などと言いながら駆け寄った。





  ◆





「あの時は本当……びびったわ……」

 居酒屋のカウンターでビールの瓶を空にしながら、男が苦笑した。この暑い中で、スーツをきっちりと着こなしている。会社帰りのサラリーマンのようだ。

 その横で酢の物をつついている男も、きっちりとスーツを着こなしている。こちらも、サラリーマンと見て良さそうな装いだ。

「こっちもびびったよ。まさか鈴木が勢いよく走ってきて、キックで花火を蹴り落とすなんて思わなかったし。……あの時あれを作ったのはさ……自分で花火を作りたかったんだよ。自分だけの花火をさ」

「そうは言ってもなぁ。あれはまずいって、流石にわかるだろ? もう小学五年生だったんだからさ」

 そう言って、男──鈴木はグラスのビールを飲み干した。空になったグラスを置くと、ビールの追加を注文する。

 新たなビールが運ばれてくると、鈴木は自分と相手、それぞれのグラスにそれを注ぎ足した。

「でも、まぁ。田村の花火を作りたいって気持ちは本物だったんだろうな。まさか、仕事で花火を作るようになるとは」

 感心した声で言うと、相手──田村は「まぁね」と少し恥ずかしそうに笑った。

「俺も驚いたよ。まさか、仕事で鈴木と再会するなんて。って言うかさ」

 少しだけ所在なさげに、田村は辺りを見渡した。

「俺達、こんな風に一緒に呑んでて良いのかな? うちと鈴木のとこ、敵対してるけど……」

「社外秘の情報を喋ったりしなきゃ大丈夫だろ。仕事はどうあれ、俺とお前は小学校時代のクラスメイト。旧友同士で呑んでて、何が悪いんだ?」

 鈴木の言葉に、田村は「そうだね」と笑ってグラスを手に取る。

「……ってかさ、お前本当に花火一辺倒だけど、それで良いのか? 上に何か言われたりしてねぇの?」

「何だかんだで、毎回毛色の違う物を出してるだろ? だから、今のところは大丈夫。……これ以上の情報は、社外秘になるから」

「……おう」

 頷くと、鈴木はつくねを頬張り、ビールで胃に流し込んだ。

 そこからは、もう仕事の話は無しだ。昔の話に花を咲かせて、二時間。二人は、「じゃあ、また」と声をかけあうと、店の前で別れた。





  ◆





「はっはっはっはっは! 今日がお前達の命日だ、アクアレンジャー! 我らの科学力で貴様らを蒸発させ、打ち上げ花火にしてくれる!」

「ふざけるな! 今日こそお前の中に燻る悪の炎を消火してやるぞ、メラメラ団、悪の科学者タームラ!」

 よく見る……どころか、最近では少々陳腐になってきた感もある言葉を発しながら、ヒーローと悪の組織が対峙している。ヒーローは全部で五人。悪の組織は幹部が一人と、雑魚戦闘員が複数人。尚、今回出張ってきている幹部は組織の科学者タームラだ。

 ……あの、居酒屋で飲んでいた田村である。そして、変身前のヒーロー達のうち、赤を担当しているのは一緒に呑んでいた鈴木だ。

 ヒーロー達は変身し、雑魚戦闘員達と入り乱れての戦闘が始まる。

 田村……否、タームラが己の開発した兵器で戦闘員達の援護をするが、ヒーロー達は怯まない。

 やがて、その時がやってきた。

 ヒーロー達の必殺技がさく裂し、雑魚戦闘員達を一掃していく。そしてそのエネルギー派は留まるところを知らずに突き進み、タームラに直撃した。

「おのれ、アクアレンジャー! またしても我らを花火にしおってぇぇぇぇぇっ!」

 捨て台詞を叫びながら、タームラは何人かの雑魚戦闘員達と共に空の彼方へ飛んでいく。その様子を眺めながら、鈴木──アクアレッドは「あいつ、一緒に呑んだ時とキャラが違うよなぁ」「とにかく花火に拘るよなぁ、あいつ……」などと考えていた。

 何故彼は、あそこまで花火に拘るのか。キャラが違うのは何故なのか。

 次に会った時にはその点について言及してみようなどと心に決めながら、空に向かって、呟いた。

「また、近いうちに呑みに行こうな」

 と。













(了)











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