銀河混沌冒険団
























 映画に出てきそうな光景だった。辺り一面灰色で、無機質な印象で。床が何でできているのか材質はわからないけど、歩くとコツコツと音がする。

 時々扉が開くと、プシュッという空気が抜ける音がした。とにかく、映画で見たSFの世界そのままのような空間だった。

 体感で、三分ぐらい歩いただろうか。他と比べるとやや大きい扉の前で、俺達は足を止めた。

「ここは、皆が集まって話をしたりご飯を食べたりするための談話室! 誰かと話をしたくなったら、ここに来ればそのうち誰かには会えるからね!」

 そう言って、彼女は開いた扉の内へと消えていく。その後を、俺は慌てて追った。そして、すぐに目を丸くする事になる。

 談話室の中は、星でいっぱいだった。いや、星柄のグッズがたくさん置かれているわけじゃない。扉がある面を除いた、壁三面。そして、天井。合計四面は、壁と言うよりも窓だった。枠だけがあって、窓がそのまま壁として機能しているような。

 そんな部屋だから、入った途端に数え切れないほどの星が、俺の目に飛び込んできたんだ。どこを見ても、プラネタリウムなんて目じゃない程のたくさんの星。天体望遠鏡を使って見るよりも、ずっと大きく見える。

 そして、その星はどれも、目に見えない凄味のような物を持っていて。それで、俺は悟った。これは、映像でも作り物でもない。本物の星だという事を。

 その本物の星が、こんな至近距離に見えるという事は、つまりここは……。

「ここ……宇宙……?」

 そう考えれば、さっきの船という言葉にも説明がつく。宇宙船だ。何の因果か俺は宇宙に連れ出され、どういう経緯があったのか、今は宇宙船の中にいる、という事になる。

「理解力があるようで、何よりだ。説明して納得させる手間が、少しだけ省けたな」

 いきなり、横から声が飛んできた。低いけど、滅茶苦茶低いわけじゃない、若い男の声だ。大迫力の宇宙空間に気を取られていたけど、談話室には人がいたらしい。

 横に視線を移せば、声から受けた印象通りの若い男が立っていた。若い男というか、俺と同じぐらいじゃないだろうか。多分、十七か十八か、そんなところだ。

 肌は、褐色と言うんだろうか? 俺と比べると、随分日に焼けている。髪は青黒くて、櫛で梳かしている感じではなさそうだ。それでもって、北欧のバイキングのような服装をしている。

「……ここ、何パーク? それとも、何とかランド?」

「折角現状を理解したのに、何でわざわざ頭をリセットするんだ。お前の感覚からすればコスプレに見えるかもしれないが、俺達にとってはこれが普通なんだぞ?」

「あ、ボクの恰好は普段着じゃなくてステージ衣装だよ?」

「話をややこしくする発言はよせよ、ミル」

 そういえば、今まで聞いてなかったな。彼女の名前は、ミルというらしい。……ステージ衣装?

「ミルはすぐに話が脱線するし余計な情報を出して場を混乱させるから、何かの説明を求めるのなら他の奴に訊いた方が良い。……どうせ、何がどうなってお前が今ここにいるのか、話をするために談話室に連れてきたんだろ?」

「そうだけど、クルルってばデリケート無さ過ぎだよぉ。ああいう言い方したらボクが傷付くかも……とか思わなかったの?」

「お前、これぐらいで傷付くようなタマじゃないだろ」

 頬を膨らませるミルに対して、男――クルルが呆れた様子でため息をついた。そして、すぐに俺の方に視線を戻す。

「じゃ、こっからが本題だ。結論から言っても混乱するだけだろうから、順を追って説明するぞ。まずお前がとある星の宇宙船に拉致られて、意識を失っているうちにコールドスリープさせられたのが、地球のセイレキでいう二千年代。そうだな?」

 クルルの問いに、俺は素直に頷いた。それに頷き返すと、クルルはまた言葉を発する。

「お前が眠っていた装置は、宇宙歴でどれだけの時間眠っているのか表示されるようになっていた。そこから計算してみると、お前にとっての年表のような物が大体わかるんだ。それによれば、お前が拉致られてから十八年後に……地球は滅んだ」

「……滅びた……」

 さっき、ミルも言っていた。あの時は意味がわからなかったけど、クルルの冷静な声で順序立てて話されると、その意味が急速に頭に染み込んでくる。

「そう、滅びた。因みに、滅ぼしたのは俺の祖先」

「お前かよ!」

「祖先、な」

 どうどう、と馬でも宥めるかのような事を言いながら、クルルはまたもため息をついた。ため息の多い奴だ。

 それにしても、不思議な事に。クルルの祖先が地球を滅ぼしたと言われても、怒りも何も湧いてこない。

 多分、言われただけでその現場を見ていないから、地球が滅びたという実感が無いからじゃないだろうか。大体、やったのがクルルの祖先だと言うのなら、クルル自身は何もやっていないわけだし。実感の湧かない事で、実際にやったわけじゃない奴に腹を立てるのはお門違いだから、というのもあるだろう。大体、やったのが祖先だって言うなら……。

「……ん?」

 首を傾げて、俺はまじまじとクルルの顔を見た。

「……どうした?」

「いや、その……クルル、で良いんだよな? お前の一族って、成長がめちゃくちゃ早くて、すぐに代替わりしちゃうような感じ? 祖先って言い方だと、まるで何百年も前の話みたいに思えちまうんだけど、それって俺とお前の種族の違い?」

 そう言うと、クルルは「あー……」と面倒そうに声を発した。

「いや、本当に何百年前……というか、千年ほど前の話なんだが……」

「……は?」

 千年?

「いやいやいや! 何、千年って? 俺、平安時代の人間じゃねぇよ? 語感は似てるかもしれねぇけど、平成の人間だからな?」

「間違えてない。本当に千年経っているんだ。お前が眠りについて、更に地球が滅びてから」

「……マジで?」

「マジだ」

 残念ながら、クルルの目は本当にマジだ。つまり、クルル達の頭がおかしいとか、俺が夢を見ているとか、そういう事で無ければ。

「俺は千年の間寝てて、その間に地球が滅びた……?」

「そうなるな。……あ、一応言っておくが、その時は滅びたと言っても、地球人……人間だけが滅びたのであって、地球自体は滅びていなかったんだからな?」

「うんうん。クルルとしては、そう言っておきたいよねぇ」

 俺からしてみれば、滅んだのが人間だけだろうと地球全体だろうと、似たようなものだ。いくら地球が滅んでいなくたって、人間が滅んでいるんじゃ……ん?

「〝その時は〟?」

 クルルの言葉が、引っ掛かる。その言い方では、まるで……。

「あぁ。千年前に俺の祖先が地球に侵攻した時は、人間だけが滅びたんだがな。つい最近……そう、二年ほど前。地球全体が滅んだ。……地球に移住していた、俺の一族も一緒にな」

 シンと、辺りが静まり返った。そりゃそうだ。一族滅亡をカミングアウトされて、楽しくお喋りなんてできるわけがない。それでなくても、話が本当ならこちらも人類丸ごと滅びているんだから。

「クルルの一族って、なんで滅びちゃったんだっけ? 食中毒?」

 いたよ、この状況で楽しそうにお喋りできる奴。可愛いのに、性格が残念過ぎる。

「一族郎党滅びる食中毒ってレベルが高過ぎだろう。原因は、神の怒りを買ったから。これに尽きるな。まぁ、千年もの間地球生まれで無い奴が星を占拠したりしていたら、地球の神々が怒って自然災害のコンボを決めるのも、さもありなんと言ったところか」

「いや、ちょっと待てよ。一族郎党滅びた理由が神の怒りを買ったからって、下手したら食中毒よりも現実味無ぇんだけど!? 江戸時代とかならともかく、今の時代にそれは無いだろ!」

「それはお前の時代に神々が信じられておらず、存在を証明する手段も無かった、というだけの話だろう。今は違う。神と呼ぶべき、一個の生命を超越した存在はたしかに様々な星にいて、現代ではそれを視認するすべもある。……と言うかお前、自分の星が滅びた話をしているのに、妙に冷静と言うか、変なところを気にするんだな」

「いや、なんか実感が湧かなさ過ぎて」

 そう言うと、クルルは「まぁ、そうかもな」と言って頷いた。

「俺も、一人宇宙に出ている間に一族郎党滅ぼされて、最初は何が起きたのかさっぱりわからなかった。……たしかに、実感は湧かなかったな」

 そう、少しだけ寂しそうな顔で言って。それからクルルは「そんなわけで」と言葉を継いだ。

「地球が滅びて、一族も滅びて。実感は湧かなくても、いつまでも呆けているわけにもいかないからな。大き過ぎるという理由で廃棄され無人になっていた宇宙ステーションを改造して、この船を造ったんだ。それで、新天地を求めて旅に出た」

「その途中で、ボクみたいな仲間を増やしたりね」

 ミルの言葉に、クルルは頷いた。……と思えば、俺の方を指差してくる。

「その旅の中で、何が原因かは知らないが乗組員もおらず、幽霊船のようになっていた船を一隻見付けた。その中で眠っていたのが、お前だ。コールドスリープさせられていたために、難事を避ける事ができたのかもしれないな」

「機械に表示されてた言葉から、キミが千年ぐらい昔の地球人だって事はわかったから。それで、クルルがデータベースから地球が滅びる前のデータとかを引っ張り出して、必死になって調べたんだよ。色々と理解する事ができたから、じゃあそろそろ起こそうかって話になったの。だから、キミを解凍したんだよ」

 俺に説明すべき事は全て話し終えたのだろうか。クルルはフーッと大きく息を吐くと、続いて近くにあった壁をすいすいと触り始めた。タブレット端末の画面をスワイプするような動きを何度か繰り返しているうちに、どこかでカタリという音がする。

 どうやら引き出しであるらしい開いたそれに手を突っ込むと、クルルは何かを取り出して俺に投げ付けた。手に取ってよく見てみれば、それは……。

「あ、俺のスマホ……」

 見覚えのある端末に、思わず俺は呟いた。クルルは無言のまま頷くと、「中を見ろ」と言わんばかりにそれを指差してくる。

 言われなくても、スマホを手に取ればメッセージやら何やらを確認せずにはいられないのが最近の高校生だ。……いや、クルル達の説明が本当なら、千年前の高校生か。

 とにもかくにも、すぐに電源ボタンを押してみた。スマホまでコールドスリープしていたのか、クルル達がメンテしてくれたのかはわからないけど、俺のスマホは千年経ったとは思えない程スムーズに電源が入った。

 もどかしい思いをしながらパスワードを入力して、まずはメッセージアプリのアイコンを探した。

 そこで、俺は硬直した。

 メッセージアプリのアイコンをタップしても、何も起動しない。それだけじゃない。ダウンロードしたゲームや電子書籍、その他の便利なツール。諸々のアプリアイコン全て、タップしても何も起きない。

「そりゃ、千年経ってるし。そうでなくても、地球が滅びちゃってるんだし。地球人が開発運営していたアプリも、使えなくなってるよね」

 ミルの言葉が、耳の奥でじんじんと響く。俺は、恐る恐るメール機能を立ち上げた。スマホに直接メールが届くこの機能は生きていたようで、懐かしい画面が目の前に映し出された。

 俺はホッとして……そして、ぎょっとした。

 受信件数、十一万八千六百二十三。こんな数字、今まで見た事が無い。

 そのほとんどはダイレクトメールや迷惑メールだけど、そうじゃないメールもたくさん来ていた。そして、その大半が……親。

『今どこにいるの?』

『早く帰ってきなさい』

『どうして返事をくれないの?』

『大丈夫? 何か事件に巻き込まれているんじゃないかと心配しているので、一度連絡をください』

『お願い、返事を頂戴』

『つまらない事で怒鳴って悪かった。とにかく今は、お前の無事な顔が見たい。連絡をしてくれ』

 呼吸が、一瞬止まったように感じた。そして、この親からのメールが、クルル達の言葉に現実味を与えていて。親だけじゃない。友達からのメールも。

『どこかでテレビ観たか? 親父さんとおふくろさん、心配してただろ。返事してくれよ』

『口さがない爺さんや婆さんは、神隠しなんて言ってるけどさ、お前、神隠しなんかに遭うタマじゃないよな? な?』

『ねぇ、何でメッセージ読んでくれないの? 全部未読のままじゃん。皆心配してメッセージ送ってるんだからさ、読むぐらいしなよ』

『返事してくれよ、頼むから』

 メールは、過去の物から読めば読むほど、悲愴な文面になっていく。受信日も、俺の知らない日付になっていく。

『今日、失踪してから七年が経ったため、死亡扱いにすると連絡がありました。……お母さん、信じないからね。死んだなんて信じない。絶対に生きてるって、信じてるからね』

『誰が何と言おうとも、お前のスマホは解約しないでおく。だから、いつでも連絡してこい。命ある限り、父さんも母さんも、お前の事を待っているから』

 何でだろう。鼻の奥が、ツンとする。何だか無性に、両親に会いたくなった。会いたくなって……そして、今まで聞いた話が本当なら、俺はもう二度と両親に会う事はできないんだ、という事に気付く。

 両親だけじゃない。友達にも、好きだった子にも、誰にも。親しかった人とは、もう二度と会えない。地球が本当に滅びてしまったのなら。本当に、千年の時が経っているのなら。

 思わず鼻をすすった俺に、クルルがまたため息をついてから声をかけた。

「それで……どうする?」

「どう、って……?」

 首を傾げた俺に、クルルはまたため息をついた。何度目だ?

「お前がどうしたいか、訊いているんだ。ひとまず挙げられる選択肢は、地球に戻ってみるか、俺達と一緒に新天地を探すか、世をはかなんで宇宙に放り出され一瞬で息絶えるか。千年も眠らされていたのは流石に気の毒だからな。お前がどれを選ぼうと、その決定に従ってやる」

 言われて、俺は唾を飲み込んだ。答えは、決まっている。けど、それを口にするのは、とても怖い。

 それでも、口にしなければ何も進まない。俺は深呼吸をして、恐る恐るクルルの目を見て……そして、言った。

「……地球に帰りたい。本当に何もかも滅んじまったのか、自分の目で見ねぇと、納得できそうにねぇし……」

 その言葉に、クルルが頷いた。ミルもどこか嬉しそうな顔をして頷いている。

「そうと決まったら、まずはちゃんと自己紹介をしないとね! ボクはミル! ミルキア=リバウェイっていうの。ミルって呼んでね!」

 跳ねるような声音で自己紹介をすると、ミルは「はい、クルルの番!」と言ってクルルを指差した。それを受けて、クルルはまたため息をついている。

「クルルス=コックローティだ。この船の船長をしている。わからない事があれば、何でも訊くと良い。……何度でも訊いたら、叩きのめすがな」

「……叩きのめすって言葉の物騒さよりも、ファミリーネームと思わしき単語が気になって仕方がねぇんだけど……」

 英語教育が浸透してきた最近の小学校なら、いじめられる事請け合いの名前だ。勿論、最近というのは俺の感覚で。

「……一応説明しておくと、俺達とお前は全く別物の言語を使っている。会話ができているのは、高性能翻訳機を脳に埋め込んでいるからだ。だから俺達の話はお前にちゃんと理解されるし、お前の話を俺達が理解する事もできる」

「けど、名前だけは翻訳されないんだよね。音がそのまま伝わるんだ。だから、例えクルルのファミリーネームがキミの故郷の言葉でゴキブリの意味だとしても、クルルの故郷の言葉ではまったく違う意味だったりするんだよ?」

 せっかく濁していたのに、ミルがさらりと言ってくれてしまった。けど、クルルは特に気にする様子も無く、辺りをきょろきょろと見回している。

「それと、あと一人……ピューレ!」

「聞こえていますよ、クルル」

 クルルの呼び声に応えて、綺麗で優しそうな声が聞こえた。どうやら、他にも女性がいたらしい。クルルの言葉から、今この船のメンバーは三人らしい。……という事は、クルルはハーレム状態になっているわけか。

 羨ましい気持ちを抑えながら、声のした方へと目をやる。そこには、天井があった。そして、換気口と思わしき正方形の金網で蓋をされた穴があった。

 そこから、でろりと。蛍光黄緑色の物体が染み出すように現れた。

 あれは……見た事がある。実物は見た事が無いが、ゲームやアニメで何度も見た事がある。……いや、実物も見た事がある。……というか、作った事がある。

 いつ、どこで? 小学生の時、小学校の理科室で。たしか授業じゃなくて、日曜日開催の理科教室イベントだったと思う。

 それはスライム。蛍光黄緑が目にまぶしい。

 それはどう見てもスライム。でろでろと溶けているようで、触ったらべたべたしていそうな反面、プルプルしていそうでもある。しかし今、本当にプルプルしているのは「スライムじゃん!」と叫びたいのを我慢するために力を込めている俺の横隔膜だ。

「ねぇ、クルル、ピューレちゃん? この子、「スライムじゃん!」って言いたそうな顔でプルプルしてるけど?」

 言うなよ、空気読んでくれよ頼むから!

「ミルに空気を読むなんて芸当は期待するな。俺達もとうに諦めている」

 空気を読むって、一芸に入るんだっけ?

 困惑する俺の前に、スライムはずりずりと……しかしスライムとは思えない速さでやってくると、ぷるんとひと震えした。

「はじめまして。ピューレ=アップルオレンジ、と申します」

 アップルオレンジ……蛍光黄緑なのに。果物名を羅列した名前が、素直に可愛い。スライムなのに。……いや、俺にどう聞こえていても、向こうにとっては意味が違うかもしれないのか。

 考えているうちに、何だか色々とどうでも良くなってきた。何せ、今俺にとっての現実は、ここは宇宙で、何故か俺はここにいる。それだけだからだ。

 地球が本当に滅びたのかなんて、この目で見ないとわからない。こんな宇宙船を造る技術を持った奴らなら、俺のスマホを改造して、あんなメッセージを残しておく事だってできそうだし。……それに何の意味があるかと訊かれると、苦しいけど。

 なら、現状を正しく理解して納得するまでは、余計な事は考えない方が良い。……何も考えずに行動するな、って、親父にはよく言われてたけど。あの日の喧嘩も、たしかそれが原因だったけど。

 考えても考えても、悪い事ばかりが思い浮かんで、建設的な事なんて何一つ思い浮かばない。だったら何も考えず、考えなきゃいけない時が来るまで呑気に過していた方が良いだろう。

 だから、今は深刻に考えない。船のメンバーにはツッコミどころが多過ぎるけど、少なくとも一緒にいて嫌な奴らじゃなさそうだし。

 俺は笑った。ニカッと。俺の現状を知ってる奴から見たら、かなり意外だと思われるだろう笑顔を作った。別に、無理はしていない。本当に、自然にこの顔になった。

 そう言えば、俺もまだ自己紹介をしていなかった気がする。……多分、こいつらはもう俺のフルネームなんてわかり切ってるんだろうけど、それでも自己紹介無しというのは間が悪い。

 自己紹介なんて、クラス替えの時以来で少し気恥ずかしい気もするけど、とにかく俺は、三人……いや、二人と一体? ……三人で良いか。三人に向かって、名前を告げた。

「俺は、翔太。瀧澤翔太。十八歳で、高校三年生」

「いや、コールドスリープさせられてから千二十年経っているんだから、千三十八歳だろう、お前」

「ずっと寝てて知識も記憶も更新されてねぇし、体も若いままなんだから良いだろ、十八歳で!」

 クルルにツッコみ返せば、それを見てミルがケラケラと笑っている。ピューレは……口の無いスライムから「うふふふ……」という笑い声が聞こえてきて、更にぷるぷると小刻みに震えていて……なんだか、怖い。

 それでも、こうして笑い合えた事が無性に嬉しくて。そして、とてもホッとした。

 これなら、大丈夫かもしれない。何かあっても、なんとかなるかもしれない。そんな安堵の気持ちと共に、俺はこの日、この謎の宇宙冒険団とも言うべき集団に加わったのだった。











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