ガラクタ道中拾い旅













STEP6 未来を拾う





























「……で。あんた、自分が何言ったかわかってる?」

あれから更に四日が経ち、普通の食事を摂れるようになっていたワクァは、朝食後の中広間でヨシに言われ、頭を抱えた。ヨシが言っているのは、戦闘後にヒモトに言った言葉の事だ。

「お腹が空いたり、睡眠不足になってたりすると判断力が低下するって、本当なんスねぇ……」

トゥモも、呆れた顔をしている。横にいるゲンマは、実に楽しそうな笑顔だ。

「あなたの作ったみそ汁が飲みたいってさ、うちの国じゃ求婚時に言う台詞の定番なんだよね」

「やってくれたなぁ。真面目な奴ほど、不意にとんでもない事をやらかすって言うけど……やってくれたなぁ……」

ホウジはホウジで、ニヤニヤと笑っている。

たしかに、あの時は判断力が低下していた。三日間飲まず食わずで、一睡もしていなかったと思う。思考が鈍って当然だ。

しかし、だからと言ってアレは無いだろうと、ワクァは頭を抱えたまま頽れる。ヨシが、楽しそうに追い打ちをかけた。

「膝枕までしてもらっちゃったしねぇ」

「言うな! 笑うな! 思い出させるなーっ!!」

真っ赤になりながらムキになって叫び、ヨシ達はより一層楽しそうに笑う。そして、しばし笑うとはたと真面目な顔になった。

「けど……これってやっぱり、結構問題よね?」

「……何がだ? 寧ろ、問題じゃない点なんてあるか……?」

自棄になってワクァが問うと、ヨシは「だって……」と呟く。

「ヒモトちゃん、お姫様だし。ワクァ、王子様だし」

その言葉に、ワクァは「あ」と呟いた。根本的な問題に気付いたらしく、顔が青くなる。ヨシが、「そう」と頷いた。

「テア国の王様に、ヒモトちゃんをお嫁に下さいって言うの? あの普段は穏やかだけに怒ったら怖そうなテア国の王様に? それでもって、それをヘルブ国の王様に相談しないといけないわよね? 王族同士となると、国家間の問題になるわけだし」

「あぁ、ヨシの見立て通りだな。うちの父上、怒ると死ぬほど怖ぇぞ。あと、末娘のヒモトの事はああ見えて溺愛してるんで、本気でヒモトの事が好きなら、死ぬ気でかかれよ?」

最初からこれまで無責任に煽り続けていたホウジが、ここにきて特大の無責任発言をぶつけてきた。更に、トゥモが申し訳なさそうに首を傾げる。

「あの……今更何なんスけど……」

「今度は何だ……?」

もうどうとでもなれと言わんばかりにワクァが疲れた顔で問うと、トゥモは言い難そうにしながらも口を開く。

「そもそも……ヒモト様ってワクァの事、どう思ってるんスかねぇ……?」

空気が冷え込み、一同は固まった。

「とぅ……トゥモくん、本当に今更何を言い出すわけ……?」

「いや、だって……ヒモト様、ここまでワクァの事、好きとか嫌いとか、一言も仰ってないっスよね……? 親切にしてくれてるし、ワクァが元気になった時一緒に喜んでくれたし、リラから剣を打ってくれたし、嫌いではないと思うんスけど……何かこう、異性として好きというよりは、同じように剣を愛する仲間として好いてくれているって可能性も……」

「トゥモくん、ストップ! そこでストップ!」

ワクァの顔が次第に無表情になっていくのを見て、ヨシが慌ててストップをかけた。トゥモは「済まないっス……」と頭を掻きながらも

「けど母ちゃんが、若い頃の恋はとかく勘違いで突っ走り易いから、まず相手の気持ちを確かめてから動けってよく……」

息子がドジであるが故、言って聞かせたのだろう。まさかその発言が、隣国でワクァにダメージを与えるとは、トゥモの母も思うまい。

結果、ワクァは思い悩む顔になり、ヨシとトゥモは励ましの言葉を考えるのに目を白黒させ、ホウジとゲンマはどうしたものかと顔を見合わせている。

そんな時だ。

「ヘルブ国の皆様、それに兄上方。父上とセン兄上がお呼びですが……」

当のヒモトが、姿を現した。ヒモトは、中広間の空気が妙に浮足立っている事に首を傾げながらも、「お早めに」と言って去ってしまう。ホウジが、苦笑した。

「まぁ、案ずるより産むが易し、ってな。ここは一つ覚悟を決めて、精神的にも肉体的にも殺されてこい」

うん、と頷きながら軽く言うホウジに、ヨシとトゥモが目を剥いた。

「やっと立ち直ったのに、ここでまた精神的に死なれたりするとか、冗談じゃないわよ!」

「肉体的に死ぬのもまずいっス! と言うか、嫌っス!」

「おい、騒いでいないで、さっさと行くぞ!」

「おや、いつの間にかワクァ殿が一番冷静だ」

ゲンマがあははと笑い、五人でぎゃあぎゃあと騒ぎながら中広間を出て行く。その様子を、フォルコが興味深そうに眺めながら立ち上がった。そして、微かに相好を崩しながら中広間を出る。

後に残されて微睡んでいたマフが目を覚まし、その様子を見て「まふ?」と首を傾げた。











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