ガラクタ道中拾い旅













第九話 刀剣の国













STEP2 淡い気持ちを拾う




























テア国の街並みは、ヘルブ国と比べると大分印象が違う。石造りの建物が多いヘルブ国に対し、木造の建物が多いせいだろう。

全体をいくつもの山に囲まれており、人が住める土地はあまり広くない。人が住める面積だけで言えば、国全体の規模はヘルブ街より少し大きい程度だろう。周りを取り囲む山を全て加えても、精々ヘルブ国の三分の一といったところだ。

その、決して広くは無い国土のやや南西寄り。山を背にした場所に、テア国王の居城――この国では館と呼んでいる――があった。

ヒモト達に連れられ門を潜ると、それまでの木材を基調とした街並みは姿を消し、石を積み上げて造った迷路のような道が姿を現す。上を見上げれば、石造りの壁の上には、更に白い壁。等間隔に穴が穿たれている。

「あの穴は、戦の時に使用する物だとか。万一敵が城に侵入した時に、この迷路のような道で戸惑っているところをあの穴から弓矢で狙い撃つ、と」

「……つくづく。ホワティア国の王様、よくこの国に喧嘩を売る気になったわね……」

「普段は温和な国だという事だからな。それでナメてかかったんだろう」

「実態を知ったら、絶対にこの国と戦争なんかしたくないっスね……」

各々が思い思いの感想を口にしていると、ホウジとゲンマが嬉しそうな顔をして振り向いてくる。

「そんなに怖がらなくても良いぞ。テア国民は、基本的に旅行者には親切な国民性だ。これは、他国から来た旅人や移住者から聞いた意見だから、間違い無いぜ?」

「特に今は、ホワティア国の嫌がらせが落ち着いてきて、皆喜んでいるからね。敵地に乗り込んでホワティア王にひと泡吹かせたワクァ殿やヨシ殿、トゥモ殿の事は、多くの国民が歓迎してると思うよ」

そうそう、とホウジが楽しそうに言った。

「ヒモトなんか、何日も前から楽しみにしてたんだぞ? 久々に強い剣士と手合わせができるかもしれないって」

「せっかく見目麗しい王子殿下が来るって話なのに、何を楽しみにしてるんだろうね?」

「兄上方、余計な事ばかり仰らないでくださいまし」

ヒモトが頬を染め、様子を窺うようにワクァ達の方を見る。ワクァもヒモトの方を見ていたらしく、また視線が合った。思わず、二人揃って視線を逸らしてしまう。

その様子を、勿論ヨシは見逃さなかった。ホウジとゲンマ、フォルコとトゥモ、ついでにマフも、しっかり目撃している。全員の口から、「ほほう……」という楽しそうな声が漏れた。

軽口を交わし合っているうちに、一行は館の出入り口へと招き入れられた。足を踏み入れた途端、数人の男女が一斉にワクァ達を見、素早く手に大きなタライを持ってやって来る。タライは全て、綺麗な水で満たされていた。

「遠路はるばる、ようこそおいでくださいました」

「お疲れでしょう? ここで足を清めて、ご休息なさってください」

明るい声で口々に言って、ワクァ達を無造作に辺りに座らせる。出入り口には段差があって、丁度座り易い高さになっていた。そこで、靴を脱ぐように伝えられる。

「そう言えば、テア国は屋内では靴を脱いで過ごす文化だって、本に書いてあったわね。……ねぇ、靴下も脱いだ方が良いのかしら?」

「土に触れていないのでしたら、そちらは履いたままで結構でございます。足を清めました後に、再びお履きくださいませ。気になるようでございましたら、こちらで足袋をご用意致します」

タビという物を履いて動きが普段とどれだけ変わってくるかわからなかったので、好奇心を抑えつつヨシは丁重に断った。綺麗な水で足を洗い、手渡された布で水滴を丁寧に拭い取る。

さっぱりとしたところで、一同は館の中に上り込んだ。廊下は全て板張りで、歩くとトントン、という心地よい音がする。扉は木枠に紙が貼られている。ちら、と覗いてみれば、各部屋の床には藁を編んだような厚みのある敷物が敷かれていた。それらを一々、ヒモトやホウジ、ゲンマがショウジ、タタミ、と説明してくれる。

階段を上り、廊下を歩き、また階段を上る。廊下は建物の中央を突っ切っている時もあれば、ぐるりと外側を廻り景色を楽しむ事ができる場所もある。この館は、内部もある程度迷路のようになっているようだ。

「こうやって、ぐるぐると歩き回って、どんどん上の方、奥の方まで進んでいって。そして、最上階の最奥まで辿り着ければ、そこにはこの国の王族が待ち構えているっていうわけだ」

「勿論、敵がここまで来れたとして、タダで首を渡すほど甘くはないけどね。ヒィちゃんは規格外だけど、この国は女性もそれなりに武術を学ぶんだ。僕はヒィちゃんよりも弱いけど、父上と長兄はヒィちゃんよりも強い。ホウジ兄上は更にその上だ。攻め込んで来ようとする者には、是非とも腕を磨いてきてもらいたいね」

ホウジとゲンマはからからと笑っているが、さりげなくけん制されたような気がする。勿論、テア国に攻め込むつもりなど毛頭無いが。

そうこうしているうちに、一同は酷く広い、畳が何百枚も敷き詰められた部屋へと通された。部屋の中に段差が設けられており、最上段には小さな布団のような物が一枚、敷かれている。その横には、木でできたひじ掛けの様な形をした箱。恐らく、あの小さな布団に座り、あの箱がひじ掛けの代わりになるのだろう。

「ここが、大広間。この国の王が、大臣や他国の使者と顔を合わせるための部屋となっております」

ヘルブ国で言うところの、謁見の間か。たしかに、妙な威圧感を与える広さと、先客が誰もいないのに張り詰めている空気は似ているかもしれない。

ホウジ達の先導で、王座の二段下、中央に案内される。そして、ここで座って待つようにと指示された。

どう座れば良いのかわからなかったので、地面に座る時のように座ってみる事にした。ワクァとヨシは片膝を立てて座り、トゥモは両膝を抱えるようにして座る。

「トゥモくん……何となく、だけど。多分その座り方は違うと思うわ」

「……自分も、何となくそんな気がしてるっス」

全員で額を突き合わせて相談し、最終的にフォルコの真似をすれば良い、という事に気が付いた。一度来た事がある人間がいる、というのは非常に心強い事であると、今更ながら強く思う。

四人が横一列に並び、ヒモト、ホウジ、ゲンマは部屋の隅に縦一列になって座る。そうして全員の座が落ち着いた時、奥の方からタン、タンという足音が聞こえてきた。











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