ガラクタ道中拾い旅













第九話 刀剣の国












STEP1 よく似た少女を拾う




























「親書?」

謁見の間に呼び出されたワクァが、少しだけ目を見開いた。どこか、緊張しているようにも見える。

仕方あるまい、と、後方に控えていたフォルコは思う。親書と言えば、国と国とを繋ぐ重要な書簡。それを届ける役目を、まだ政治の場に慣れていないワクァに任せようと言うのだから。

「先の、ホワティア国との戦争でテア国には一方ならず世話になったからな。かの国には、特に我が国にとって重要な意味を持つ者を使者として出したい。……復帰して間が無いとは言え、お前はこの国の王子であり、次代の王。それに、テア国が援軍を出してくれた事で最も助かったのも、ワクァ、お前とお前の仲間達だ。ならば、お前を使者とするのが理に適っているだろうと思った、というわけだ」

納得はしたようだが、それでもまだ緊張したままのワクァに、王はフッと微笑んだ。

「そんなに心配そうな顔をするな。何も、お前一人に行かせようというわけではない。供に、フォルコとトゥモを付けよう。それに、客分であるヨシ君にも、行って貰えるようはからうつもりだ」

ワクァの表情が少しだけ緩み、王の命に従う旨を告げた。そして、立ち上がり謁見の間から退出する時には既にいつも通りのあまり感情の奥底を見せようとしない表情になっていた。歩みにも迷いが無い。恐らく、すぐに部屋へと戻り、手早く旅の用意を済ませてしまうのだろう。

切り替えの速さに感心しつつ、フォルコは王へと視線を向ける。王は、少しだけ寂しそうな顔をしていた。

「あの迷いの無い歩き方を見ていると、あの子は私達がいなくても、立派に育つ事ができたのだな、と思ってしまう。喜ぶべき事なのだろうが……やはり、親としては少し寂しいものだな」

「慣れ親しんだ者だけを供につけるという、これ以上無い甘やかしをしておきながら何を申されております事やら……」

呆れた様子のフォルコに、王は「そうだな」と苦笑した。王の横では、同じように控えていたウトゥアも苦笑している。

「陛下? そろそろ陛下も退室されては? このままだと、殿下が心配だという愚痴と息子自慢でフォルコ殿が疲れ果てそうですよ」

そう言われて、王はやや残念そうな顔をしながら謁見の間を出て行った。どうやら本当に息子自慢をしたかったようだ。

苦笑し、それを収めてからフォルコはウトゥアに視線を遣る。

「それで……某に何か? 陛下の退席を促された以上、陛下には聞かせたくない話なのであろう?」

「えぇ、まぁ……」

言葉を濁し、しばらくごにょごにょと口元で何事かを言っていたかと思うと、ウトゥアは手探りをしているかのような顔でフォルコに問うた。

「フォルコ殿……旅の準備、終わりました?」

「ん? あぁ、そうだな。食料などは家人に任せている故、出発前日になろうが……某自身の私物はまとめ終わった。武器の手入れも、予備も含めて済んでいる」

そう答えると、ウトゥアは更にもごもごと言い難そうに口を動かしている。

「じゃあ、その……薬とか、応急手当に使うような道具も用意しました?」

「ある程度は……もしや、必要になると申されるのか?」

険しい顔になってフォルコが問うと、ウトゥアは「ひょっとしたら……」と歯切れが悪い。

「薬も……うん、必要になるかもしれないんですけど。それよりも必要となりそうなのは心の薬と言いますか、何と言いますか……」

「……珍しいな。貴殿がそこまで不安げに話すなど……」

不安は、伝染する。次第に、フォルコ自身も不安になってきたようだ。すると、不安の元であるウトゥアは逆に不安が消えた顔をして、難しそうな表情で首を捻っている。

「うーん……今のところ、占いの言葉を信じるなら最終的には全て解決するんですけどね。けど、未来なんてちょっとした事で変わりますから……」

こうしてフォルコと話す事自体、ひょっとしたら未来を変える切っ掛けになってしまうかもしれないのだと、ウトゥアは言う。

「それでも、貴殿は某と話す事を選んだ。……そのわけは?」

「わけ、と言うか……ちょっと、今回の占い結果は私にも重くて……一人で抱え込んでおくのが不安になったんですよね。誰かと分け合いたくなったと言いますか。それなら、殿下のお供をする事になるフォルコ殿に話して、殿下の事を必要以上に気にかけて頂きたいと思った。……そういうわけですよ」

「……貴殿が、そこまで人を気に掛けるというのも、珍しいな。相手が誰であろうと、必要以上に気をかけたりはしない、そこで倒れればそこまでの器と見切るのが貴殿という人間だと思っていたのだが……」

そのイメージ、当たってますよ。と、ウトゥアは苦笑した。

「ただ、やっぱり。陛下だけは特別ですし、その陛下の大切な一粒種ですからね。それに、会った時から少しずつ成長する姿を見ていて、個人的に気に入っている、というのもあります。……陛下の事を言えませんね。私も、殿下には相当甘くなっているようだ。それに、ヨシちゃん達……殿下のお仲間にも」

なるほど、と、フォルコも苦笑した。ウトゥアがそれに更なる苦笑を返し、二人は暫し苦笑し合う。そして、少しだけすっきりした様子で……しかし真剣な面持ちになって、ウトゥアはフォルコの目を真っ直ぐに見た。

「だから……フォルコ殿。旅の間、殿下と、ヨシちゃん達を頼みます。何があるかわかりませんが……彼らの心が例え折れても、諦めずに支えてあげてください」

「心が……?」

怪訝な顔をして、フォルコは更に何事かを問おうとする。しかし、ウトゥアは首を横に振った。それ以上は己にもわからないと、言外に語っている。

そして二人は会話を切り上げ、その場を後にした。それから出発の日まで、フォルコはウトゥアの言った「心が折れる」という言葉の意味を考え続けたが……結局、わからぬままにヘルブ国を出る事となった。












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