ガラクタ道中拾い旅










第六話 証の子守唄












STEP1 懐かしい顔を拾う














ヘルブ族が治めるヘルブ国の王都、ヘルブ街。その中心に聳える荘厳な城は、ご多分に漏れず人々からヘルブ城と呼ばれている。城の主の名は、トトファ=ヘルブ。この国の現国王であり、例のお触れを出した人物である。

「それぐらいは知っている。……と言うか、知らなければまずいだろう。色々と」

ワクァがヨシの解説を不満げに遮ると、ヨシは「まぁね」と言って笑って見せた。その様子に、緊張や不安は一切見受けられない。この国の中心たる城を眼前にして、今からこの国を総べる王に謁見しようとしているというのに、だ。

「……ところで。ひょっとしてワクァ、緊張してる?」

「……」

逆にヨシに指摘され、ワクァは黙り込んだ。王に謁見しようと言うのだ。緊張をしたとしても、不思議ではない。おまけに、昔の立場が立場である。貴族はもとより、いわゆる〝偉い人間〟は、どちらかと言うと苦手だ。

「ちょっとちょっと……この前、自分で宣言したんじゃないの。過去を乗り越える、って」

「それは……そうなんだが……」

まぁ、宣言一つで簡単に乗り越えられるような物でもないか、とヨシは困ったように頭を掻いた。

ついでに、もう一つワクァが不安を感じるであろう事がある。帯剣の禁止だ。範囲がどこまで及ぶかわからないが、少なくとも謁見の間は帯剣禁止であろう。ひょっとしたら、登城した者は皆、城内では剣を持つ事ができないかもしれない。もしそうだとすれば、長年愛剣のリラを心の友としてきたワクァには少々精神的な荷が重いだろう。

「かと言って、特例で帯剣させろー、なんて言うわけにもいかないものねぇ……」

「あれ? ワクァ! それに、ヨシさんじゃないっスか!」

突如聞き覚えのある声をかけられ、ヨシは悩ませていた頭をぐるりと巡らせた。声は、二人と一匹の進行上。城門の方から聞こえてきたように思う。

声の主を確認し、ワクァとヨシは目を丸くした。

「あ……ひょっとしなくても!」

「トゥモ!」

そこには、以前立ち寄ったユウレン村で知り合い親しんだ人物……トゥモ=フォロワーが立っていた。皮鎧を着こんでいる姿は、前に会った時よりも少しだけたくましく見える。

「……そうか。そう言えば、ヘルブ街で兵をやっていると言っていたな」

「そうっス。あれからまた街に戻ってきて、今は仕事中なんスよ。……ワクァ達は、どうしたんスか? 今日は何で城に……」

トゥモが話し込んでいる様子が気になったのか、城門を守っていた衛兵も近くに寄ってきた。手間が省けて良いと言わんばかりに、ヨシはウトゥアから渡された銀貨を取り出し、衛兵とトゥモに見せる。

「うん、旅の途中で拾った、国の行く末を安泰にする宝が見付かったのよ。しかも、宮廷占い師さんのお墨付き! 今日は、それを王様に献上しに来たってわけ」

「え……」

「な……!」

トゥモと衛兵の目が、これ以上無いほどに見開かれた。水面に顔を出した魚のように口をパクパクと開閉する二人に、ヨシは急かすように言う。

「そんなわけで、王様に謁見したいのよ。取次ぎを頼めない?」

「しっ……しばしお待ちを!」

裏返った声で叫ぶと、衛兵は慌てて城門の中へと消えていく。そして、十数分後にやはり慌てて駆け戻ってくると、ワクァとヨシに対して城門の中を指示した。

「へっ……陛下がすぐに謁見を行うと申されました! 係の兵が謁見の間までご案内致しますので、どうぞ中へ……!」

あっさりと入城を許可され、二人はごくりと唾を飲み込んだ。……が、中へ入ろうとすると、衛兵は慌てたままに言う。

「あ……申し訳ございませんが……剣はこちらの詰所にお預けください。それから……入るのは人間のみにして頂きたく……」

「まふ?」

マフが可愛らしく首を傾げた。マフは危険な動物ではない。それはワクァとヨシはよく知っている。……が、城の中にいる者全てがそう思ってくれるとは限らない。衛生面で良い顔をしない者もいるだろう。

「あ、何なら、自分が預かるっスよ?」

「……まふー……」

トゥモの提案に、マフがあからさまに不機嫌そうな鳴き声を発した。預かる、と、物か子どものように扱われたのが不満のようだ。

その様子を苦笑して眺めて、困ったような顔で少しだけ考えてから、ヨシはワクァに言った。

「……じゃあ、ワクァ。謁見の間には私が一人で行ってくるから、ワクァはここでマフと待っててよ」

「……」

ワクァは少しだけ渋い顔をして考えたが、黙ったまま頷いた。〝偉い人間〟に会わずに済み、剣も預けずに済むのであればそれに越した事は無い。

「なら、ヨシさんが戻ってくるまで、自分もここにいるっス。そうすれば、退屈しなくて済むっスよね?」

「……良いのか?」

「勿論っス。今日はもう務めが終わって帰るところだったっスから、いつまでダラダラしてても問題無いっス!」

トゥモの言葉に、ワクァとヨシは目を合わせ、そして黙ったまま頷き合った。ワクァとトゥモ、そしてマフは門の脇に移動し、ヨシだけが案内の兵についていく。その後ろ姿を見送って。

「……?」

「? どうしたんスか、ワクァ?」

「いや……」

城の中へと消えていくヨシの姿を見送りながら、ワクァは何故か、胸がざわつくのを感じた。





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