ガラクタ道中拾い旅










第六話 証の子守唄(アカシノウタ)












STEP1 懐かしい顔を拾う














「何か……もう何年も来てなかったみたい。旅に出てから、まだ一年も経ってないのに……」

門から街の中を見詰め、ヨシが溜息をつくように言った。

ヘルブ国の王都、ヘルブ街。狭くはないが広くも無い土地には所狭しと家屋が立ち並び、色とりどりの屋根が外から来た者達の目を楽しませてくれる。

石畳の道は一見平坦だが、歩いてみるとそのほとんどがなだらかな坂になっている事がわかる。石段も多く、細い道も多い。そして多くがまっすぐには伸びず、あっちにぐるり、こっちににょろりと複雑に曲がり入り乱れている。

街の中央に鎮座する王城から、街の外へと続く大門への大通りは流石に太くまっすぐな道だが、それ以外は迷路のようだ。

「だからね、道に迷った時は、一旦大通りを目指すようにすると良いわ。遠回りのように思えても、結局そのまま迷い続けるよりは早かったりするのよ」

「なるほどな」

頷くワクァは、どこかそわそわとして落ち着かないように見える。歩くペースはいつもの通りだが、視線が忙しなく動いている。

「……ワクァ、ひょっとしなくてもヘルブ街に来るの……」

「初めてだ。旅に出るまでは、タチジャコウ領から出た事すら数えるほどしか無かったしな」

勿論、落ち着かない原因はそれだけではないだろう。初めての街を訪れる事はこれまでに何度もあったが、普段冷静で感情の起伏が少ない彼がここまで落ち着かない様子でいるのは初めてだ。

今、ヨシの荷物の中には一本の書簡が収められている。掴みどころのない宮廷占い師、ウトゥアに託された書簡だ。このヘルブ街に住まう王に渡すよう言われたこの書簡には、この国の王に対して反乱を目論む不逞の輩どもに関する重大事項が記載されているらしい。

そして、この企まれている反乱には、あの男が一枚噛んでいるようだ。過去に、バトラス族であるという理由からヨシに難癖をつけた男。ワクァの過去を知っているらしい、あの男が。

「まふー、まふー……」

パンダイヌ――パンダのような姿で、犬の顔をした生物。生物学上、イヌ科にもパンダ科にも属さない――のマフの鳴き声が聞こえて、二人はハッとした。二人の過去にも関わるこれまでの経緯を思い出しているうちに眉間に皺が寄り、顔が険しくなってしまっている。

「……駄目ね。こんな顔でお城に行ったりしたら、中で暴れ出すんじゃないか、とか警戒されちゃうわ」

眉間をぐりぐりと揉み解しながら、ヨシは苦笑した。ワクァも同意するように肩をすくめる。

「それで……これからどうする?」

ワクァの問いに、ヨシは「そうねぇ……」と考え込んだ。

「とりあえず、私の家に行きましょうか。お城に行くんだもの。上着や靴の埃とか泥ぐらいは落として行かないと」

「それも、そうだな」

同意し、ワクァはヨシに向かうべき方角を尋ねる。ヨシは細い坂道の遥か上を指差した。

「こっちよ。この坂を登った先の……」

「よ、ヨシちゃん……!?」

突如かけられた声に、呼ばれた己の名に、一瞬ヨシは凍りついた。ゆっくりと振り向き、声の主の顔を見る。

「あ……おかみ、さん……?」

どこかぎこちない喋り方になったヨシに、おかみと呼ばれた中年の女性はどこか困惑した顔で言葉をかける。

「えっと、その……帰ってきたんだねぇ。旅の間、怪我や病気はしなかったかい?」

「あ……うん、お陰様で」

「……おい、ヨシ。おかみ……という事は、ひょっとしてお前が働いていた……?」

「あ。うん、そう。私が働いてた酒場のおかみさんで、マミアさん。料理がすっごい上手なのよ! 私も、働いている間にいくつか教えてもらったわ」

少しだけホッとした顔で、ヨシは頷いた。そんな様子を眺め、マミアはどこか興味深げな顔で問うた。

「……ヨシちゃん、その子は? 友達かい? ものすごい美人さんだねぇ。ここまで美人な女の子は、これまで見たことが無いよ」

「……ちょっと待ってください。俺は……」

「そ、そう! すごい美人でしょ! そんじょそこらの美人じゃ敵わないぐらい美人よね! もう妬ましいのを通り越して羨ましいくらいよ!」

ワクァの抗議を掻き消すように、ヨシは大きな声を出した。いつもならこのような場面では苦笑するかニヤニヤとするかしながら眺めているだけだというのに。

「お、おいヨシ……」

「あ、おかみさん。私達、一旦家に荷物を置きに行ったら、またすぐに出掛けるから! また落ち着いたら顔見せるわね! ……勿論、おかみさん達が迷惑じゃなければ、だけど……」

「あ、あぁ……それは構わないけど……」

「ありがとう! じゃあ、またね!」

マミアの言葉に、最後に顔を明るくして。そしてヨシはワクァの腕を掴むと一気に走り出す。あとに残されたマミアは首を傾げながら、勢いよく去っていくその後ろ姿を眺めていた。




web拍手 by FC2