ガラクタ道中拾い旅










第四話 民族を識る民族











STEP2 素性を拾う











息を切らせて走ったその先には、いくつかの小屋とテントが点在する集落があった。テントや小屋を暫く眺めた後、少しだけ落ち着きを取り戻したらしいワクァは呟いた。

「この模様……ウルハ族のテントか……」

「ウルハ族? 何だっけ……聞いた事があるような……。それに、このテントも何処かで見た事があるような……?」

首を傾げるヨシに、ワクァは逸る気持ちを抑えながら説明をした。

「少数民族とは言え、その蓄えた知識はヘルブ国一と言われる民族だ。他民族の事にも詳しいと聞く。特徴は、小柄な体躯と闇夜のように黒い髪だとか……」

「小柄な体躯に、黒い髪……?」

「まふ?」

呟くように言って、ヨシとマフはワクァを見た。黒い髪。年齢の割には小柄な体躯。そして何より、この集落から聞こえてくる歌に聞き覚えがあるらしい様子。

「ひょっとして……ひょっとしてよ? ワクァの家族って、このウルハ族の……」

「……確定したわけじゃない」

そう言いながらも、ワクァは柵の向こうをジッと見詰めている。まるで記憶に微かにでも残っている顔はいないかと探しているかのようだ。

暫くは物思いに耽らせておこう。そう思ったのか、ヨシは特にワクァに声をかけるでもなく辺りを見渡した。柵の周辺には、季節の作物が育ちつつある畑。少しではあるが、家畜の姿も見える。そこから小屋、テント、井戸と動かしていった視線が門まで辿り着いた時、ヨシは小さな声で「ゲッ」と呟いた。門には数頭の馬が括りつけられているが、それ以外には別段変った様子は無い。

「何でここにいるのよ……」

苦手な虫でも見るように馬を見詰めるヨシ。そんな彼女の様子に気付く事無く、ワクァは言う。

「とりあえず……中に入ってみようと思うんだが……」

「え? あぁ、うん。良いんじゃない? あ、私はここで待ってるから!」

「? いつに無く消極的だな」

怪訝な顔をしてワクァが言う。すると、ヨシは取繕うように慌てて言った。

「うん? あ、気にしないで。ちょっとお腹が痛いだけだから。うん!」

「だったら、尚更中に入って休ませてもらった方が良いんじゃないのか? あと、個人的な理由で悪いんだが……正直、今回はお前にいて貰った方がありがたい。初対面の人間と話すのはどうも苦手だ」

普段人に頼るという事をしないワクァにこう言われてしまうと、ヨシとしても断り辛い。やはり、自分の家族の手がかりが掴めるかもしれないとあって、緊張しているのだろう。

「う〜……もう! 仕方ないわねぇ! けど、ワクァ一人でも話せそうなら、私は隅っこに寄ってるからね! 良い!?」

「? あぁ……」

過去に類を見ないヨシの消極さに、ワクァは若干退きながらも頷いた。そして、二人と一匹が揃って集落に足を踏み入れようとした、その時だ。

「あれ、ヨシちゃん?」

集落の中から、か細い少女の声がヨシの名を呼んだ。見ればそこには、ヨシと同い年くらいの少女が一人と、少年が二人。三人の髪は皆、赤味や黄味に多少の違いはあれどヨシのようなライオンの鬣色だ。

「タズちゃん!? それに、セイとカノ!?」

「……知り合いか?」

目を丸くするヨシに、ワクァは問うた。すると、ヨシはバツが悪そうな顔をする。

「あー……うん、何て言うの? 同郷の友? って言うか、幼馴染?」

「何故首を傾げる」

追及するワクァに、ヨシは「う〜……」と口籠った。そんな彼女の様子に、三人の少年少女は不思議な顔をする。

「どうしたの、ヨシちゃん?」

「あ……何でもないっ!」

「? そう?」

必死な顔で取繕うヨシに、タズと呼ばれた少女は更に不思議そうな顔をした。そして、何かを思い出した顔になったかと思うと嬉しそうに言う。

「あ、そうだわ。今日は族長も一緒に来てるから、奥に……」

「おう、どうしたお前ら? 何か面白いモンでも見付けたのか!?」

タズの言葉を遮るように、集落の奥から落雷のように大きな声が聞こえてきた。ワクァが思わずそちらを見ると、自分より三十pは大きいであろう男が笑顔で大きな足音を立てながら近付いてくる。髪の毛の色は、やはり少年少女達と同じようなライオンの鬣色だ。その男を見た瞬間に、ヨシは更に顔を引き攣らせた。

「族長!」

カノと呼ばれた方の少年が声をかけると、どこかの族長であるらしいその男は気さくに片手を上げて見せた。

「おう、カノ! どうしたんだ? 猿でもいたか? それとも……」

言いかけて、男はぴたりと動きを止めた。その目は、確実にヨシの姿を捉えている。

「……」

「……」

何故か気まずい沈黙が生まれる。そして、男はその気まずい沈黙を破壊するように破顔しながら叫んだ。

「猿は猿でも、可愛い子猿じゃねぇか! 久しぶりだな、ヨシーっ!!」

勢い良く抱き付きかかってくる男を本当に猿のようにかわしながら、ヨシはうんざりした顔で叫んだ。

「もう! 何でこんなトコにいるのよ、パパ!?」

「……パ? ……え?」

思わぬ展開に、ワクァは思わず間抜けな声で呟いた。だが、突如目の前で勃発した父娘格闘鬼ごっこに目を奪われたのか……ワクァに構う者は誰一人としていなかった。








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