ガラクタ道中拾い旅










第三話 親友のいる村











STEP3 記憶の断片を拾う











ぽたぽたと滴を落としながら、ザバリと岸に這い上がる。陸に足を付いた途端に言いようの無い疲労がこみ上げてきて、ワクァは助け出した人物と共に地面に仰向けになって倒れこんだ。大きく息を吸い、流される事のない安定した大地に身を委ね、頭に余裕ができたところでふと考える。さっき意識を失いかけた時に聞こえてきた声は誰の物だったのだろう、と。朦朧としていたのではっきりはしないが、男性の声だったように思える。……いや、重なるようにして女性の声も聞こえたかもしれない。優しい、包み込むような……懐かしい声だった。少なくとも、物心付いてからの十云年にかけられた事は確実に無いであろう、自分を呼ぶ慈愛に満ちた声……。

『あれは、ひょっとして……』

答が出そうになって、ワクァは軽く首を横に振った。そうかもしれないが、そうじゃないかもしれない。それに、そうだったとしても、だから会えるとは限らない。淡い期待を抱くのは止そう。そう考え、ワクァが自嘲していると、ふっと辺りが暗くなった。見れば、自分の顔を覗きこんでいる人物がいる。

「ちょっと、何笑ってんのよ。アンタが笑うってだけでも空からビッグフットが降るんじゃないかってくらい珍しいのに、よりにもよって死にかけた後に笑うなんて……溺れて頭でもおかしくなった!?」

「……確信はできないが、おかしくなってはいない。あと、俺が笑ったくらいでビッグフットが降ったら世界は確実に破滅する」

雰囲気をぶち壊すヨシの発言に憮然としながら、ワクァは答えた。マフが駆け寄ってきたのを視認し、上半身を起こす。針金を胴体から外し、マフから剣と上着を受け取った。その様子を見てワクァは大丈夫だと判断したのか、ヨシは助け出された人物――自分達と同じ年頃であろう少年の方を見た。疲弊してはいるが、特に大きな怪我はしていないようだ。満足そうにそれを確認し、ふ、と表情が固まる。瞳は、少年の腕を凝視したままだ。

「あ、あの……何か?」

尋常ならざるヨシの表情に、少年はおずおず……と言うよりも、恐る恐ると言った方が良いであろう強張った声で訊ねた。ワクァと同じか、それよりも少し高い少年の声だ。その少年に、ヨシは鬼気迫る表情で訊ねる。

「ねぇ、草は!?」

「……は?」

ヨシの問いに、少年は意味がわからず間抜けに聞き返した。ワクァはと言えば、何か嫌な予感がして成り行きを見守っている。ヨシの問いは、更に詳細になる。

「だ〜か〜ら〜っ! 草よ、草! 溺れてる時、腕に絡まってたでしょ!? あれ、どうしたの!?」

そう言えば、発見した時腕に草が絡みついていたな。記憶を掘り起こしながら、ワクァは考えた。その事に少年も思い当たったのか、未だにヨシの表情が理解できないままにおずおずと言う。

「あれなら、岸に上がった時川に捨てて……」

「えぇーっ!?」

少年の言葉が終わるか終わらないかのうちに、ヨシが悲痛な叫び声をあげた。そして、それとほぼ同時に川下へ向かって走り出す。

「おい、ヨシ!? 何処へ何をしに行くつもりだ!?」

何となく読めてきた気がするが、それでも一応問う。そんなワクァにヨシは、答える時間も惜しいとでも言わんばかりの声で振り向きもせずに叫び答えた。

「決まってんでしょ! あの草を拾いに行くのよ! あの草、拾っておけば絶対に役に立つんだから!!」

だから、その人の事とか、あとヨロシク! と言い置き、ヨシはあっという間に川下へと姿を消した。ワクァと少年は、ただその様を呆然と見ているしかできなかった。







web拍手 by FC2