縁の下ソルジャーズ緊急出動!











18











「……そんな事もあったわね。……そっか、あの時の子が、初瀬さんだったんだ」

「はい。あの時助けてくれた世良さんが、僕には本当に格好良く見えましたから。だから、世良さんに言われた通り、頑張ろうと決めたんです。勉強を頑張って、たくさん技術を身に付けて。こうして、皆さんの役に立てるようになりました。僕にとっては、世良さんは格好良くて、そして、憧れの人なんです。人から憧れてもらえないヒーローなんかじゃない。少なくとも僕にとっては、世良さんは十年前からずっと、憧れずにはいられないヒーローなんです!」

いつに無く熱い口調で言う誠に、世良はしばらくぽかんとしていた。だが、やがて顔に笑みを取り戻すと、「そっか」と呟く。

「初瀬さん、私の事をそんな風に思ってくれてたんだ」

そして、グッと両拳を握ると改めて誠に向き直り、今日一番の笑顔を作る。

「ありがとう! ずっと憧れてくれてたって言ってくれて……何だか自信が戻ってきた気がするわ。これなら、新しい子が決まるまで頑張れそう!」

「あ……」

世良の言葉に、今度は誠の気勢がしぼんでいく。そうだった。どれだけ憧れていても、恐らく世良の交代はもうほぼ確定してしまっている。憧れのヒーローは、もうすぐ誠の目の前からいなくなってしまうのだ。

しょげる誠に、世良は「すぐにはいなくならないから」と言って困ったように笑う。そして、空気を変えるかのように突然大きな声を出した。

「あーあ、辞める事になったら、その後どうしようかしら? 年齢が年齢だし、婚活でもした方が良いのかしらね?」

その言葉に、誠は「えっ」と顔を上げる。言われてみれば、そうだ。二十七歳の女性なのだから、結婚の話が出てきてもおかしくない。

誠の表情を楽しむような顔をしてから、世良はわざとらしくため息を吐いた。

「けど、今まで戦ってきたお淑やかからは程遠い女を貰ってくれる人なんているのかしらねぇ? ……どう、初瀬さん? 私をお嫁さんにしてくれる人、いると思う?」

問われて、誠は思わずぶんぶんと首を勢いよく縦に振った。お淑やかからは程遠いと本人は言うが、それでも世良は可愛らしい顔をしているし、料理だって上手い。それは、さっき食べたクッキーの味が証明している。そんな世良を嫁にしたがる男が一人もいないなど考えられないと、誠はつっかえながらも力説した。

そして、力説してから何故か落ち込む。そんな落ち込んだ誠に、世良は「じゃあ……」と声をかけた。

「本当にピンクを辞めて戦わなくなったら、初瀬さん、私の事をお嫁さんにしてくれる?」

「……え?」

言われた言葉の意味が一瞬理解できず、誠は呆然とした。からかうような口調で、世良がどこまで本気なのかはわからないが……それでもその言葉が次第に脳に浸透していき、誠の顔は段々と赤くなっていく。

「えっ……その、それは……えっと、その……」

言葉が、上手く出てこない。そして、試すような笑顔を向けてくる世良に、緊張しながらも「はい」と頷いた。

「勿論、喜んで!」

「本当に?」

誠は、力強く頷いた。世良は、冗談のつもりかもしれない。しかし、誠は本気だ。

もし世良が誠で良いのなら、喜んで戦士を辞めた彼女を受け入れる。それで、戦士という立場を失った彼女の心の傷が癒えるなら。

真剣そのものな誠の顔が逆におかしかったのだろうか。世良は頬を少し赤くしながらも、くすりとおかしそうな笑い声を立てた。

「じゃあ、もしもの時は、お世話になります、という事で」

「あ、は……はい! お待ちしています!」

つい、ぽろっと言ってしまった。言い終わってから、誠は「自分は一体何を言っているんだ」と心中頭を抱え、顔を真っ赤にする。

その様子に、また世良が笑い、つられて誠も笑いだす。そうして、しばらくの間二人で笑い続けた。

だが、楽しい時はそうそう長くは続かない。

いきなり、けたたましいアラームが鳴り響く。誠と世良は二人でハッと顔を上げ、そして互いに視線を交わした。

「敵……!」

「そんな! 今日は平日ですよ? 前回が土曜日だったとは言え、まだ一週間経っていないのに……」

困惑する誠に、世良は首を横に振った。

「よく考えて。敵が一週間おきに来るって宣言したわけじゃないわ。ただ、パターンから私達が一週間おきだって勝手に思い込んでただけ」

「あ……」

そうなのだ。誰も、必ず日曜日に来る、必ず一週間経ってから来るなどとは言っていない。ただ、これまではいつも日曜日に来ていた。だから、毎週日曜日に来るものと思い込んでいたのだ。誠も、それ以外の人々も。

世良が立ち上がり、格納庫の出入り口へと足を急がせる。

「……行くんですか?」

「勿論。世間が何と言おうとも、現状で戦えるのは私達六人だけだもの」

力強く頷き、そして世良は一度足を止めると振り返り、必死に追い付いていた誠の両肩を掴んだ。

「街の事は、必ず私達が守るから。だから、初瀬さん達は心配しないで」

そう言って、世良は今度こそ格納庫から出ていってしまう。その後ろ姿が、十年前のあの日の彼女とダブって見えて。

「……やっぱり、貴女は格好良い人ですよ、世良さん」

ぽつりと呟き、誠は彼女が去った後の扉をジッと見詰め続ける。先ほどまでの世良との時間が、まるで夢か幻であったかのような空虚感を覚えた誠は、己の両頬を叩いてぶんぶんと首を横に振った。

先ほどの世良との時間、本当に楽しかった。彼女に、自分の言葉がきっかけで自信が戻ってきたと言われて、とても嬉しかった。

あんな時間を、もっと増やしたいと思う。もっと、世良と時を共に過ごしたいと思った。

そのためには、世良には残って貰わなければならない。生き残って貰わねば。戦隊に残ってもらわねば!

だが、それを現実とするために、誠には何ができる? 現場に出る事は禁止されている。再びルールを破ったところで、誠には結局、街を直す事しかできない。それは仕事だからできて当たり前で、どれだけ頑張ったところで戦隊の助けにはなっても、世良個人の助けにはならないのではないか?

ぐるぐると、動物園の檻の虎のように誠はその場を歩き回り続けた。歩いて歩いて歩いて歩いて、考えに考えて。

そして、ふ、と足を止めた。思考がまとまったのか、その目には迷いは無い。

真剣な眼差しで歩を進め、誠は格納庫から出る。歩きながら携帯端末を取り出し、そして片手で操作をし始めた。何度か呼び出し音が聞こえたところで、誠はそれを耳に当てる。

「お疲れ様です、初瀬です。……あの、堀田主任。今……お時間良いですか?」













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