亡国の姫と老剣士





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「――ニール! ティグニール!」

フィルの声が耳に届き、ティグはのろのろと目を開けました。生きています。その事に驚いたティグは、目を丸くしました。

「……フィルさん!? 僕は……」

「危うい状態じゃった。じゃが、何とか間に合ったようじゃ。後でパルペットに礼を言わんといかんぞ」

ホッと胸を撫で下ろしながら、フィルが言いました。腹の痛みはいつの間にか消えています。見れば、傷自身がすっかり消えているようです。辺りを見渡せば、ティグの横には空になった瓶が二本、転がっていました。

「これ……パルの……」

言いながら、ティグは青ざめました。戦いの前、パルに渡された薬の瓶はティグもフィルも一本ずつでした。つまり、この傷を回復する為に手持ちの魔法薬を全て使ってしまった事になります。

「一本で治るような傷ではなかった。生きるか死ぬかの瀬戸際に、薬をケチって何になる?」

ティグの顔色を読み取ったフィルが、淡々と言いました。そして、ティグに手を差し伸べ、体調を窺うように顔を見ながら言います。

「立てるか、ティグニール?」

「え? あ、はい!」

差し伸べられた手を掴み、ティグは立ち上がりました。貧血で少しフラフラしますが、戦う事はできそうです。

くらくらする頭を巡らせて辺りを見ると、そこは雰囲気的にマジュ魔国宮殿の内部である事に間違いは無さそうですが、先ほどまで戦っていた玉座の間ではありません。道理で、隙だらけの自分達にヘイグが攻撃してこないわけです。

「隙を見て一時撤退した。ヘイグの獲物をわざと見逃す悪趣味な趣向が、今回は幸いしたわけじゃ」

フィルが吐き捨てるように言いました。そして、再びティグの体調を確かめるように顔を見ながら言いました。

「私はこれから、ヘイグの元へと戦いに戻る。……君は、どうする?」

試すようなフィルの問いに、ティグはキッと顔を引き締めて言いました。

「勿論、一緒に戦います! 逃げたりはしません!」

「……迷いは無いな?」

フィルの問いに、ティグは頷きました。

「はい! それに、フィルさん、言ってくれたじゃないですか。まだ僕に死なれたら困る、って。それは、僕にできる事があるって事ですよね?」

ティグの言葉に、フィルは少しだけ困った顔をしました。

「うむ。……君には、ヘイグを倒した後にやってもらいたい事があるからな」

「? 倒した後、ですか?」

不思議そうな顔で首を傾げたティグに、フィルは「ヘイグを倒してから言う」と早口で言いました。そして、険しい表情のまま歩き始めます。

「……行くぞ、ティグニール。今度こそ、最後の戦いじゃ……!」

ティグは無言で頷き、フィルの横に並んで歩き始めました。そして目の前に、再び玉座の間の扉が見えます。

ティグは、迷う事無く鉄の扉に手をかけました。




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