ワクァ×贄ノ学ビ舎
「〝とっておき〟だってさ」
「あぁ……そりゃあ、あの顔じゃねぇ……」
「あの顔だと、本来なら女が差し出される化け物でも納得しちまいそうだよなぁ……」
ひそひそと、同情と好奇心を孕んだ囁き声が聞こえてくる。聞こえなかったふりをして、ワクァはため息をついた。
まさか、この期に及んで顔の事で何やかやと言われる事になろうとは思わなかった。
正直、かなり居心地が悪い。噂される事もそうだが、一時的とはいえ所属する事になったこの学園が生贄を養成する場である事も少なからず起因しているだろう。
この居心地の悪い場所から脱するにはどうすれば良いのか。彼の経験から弾き出された答は、至ってシンプルだった。
この学園の基盤を支えている、化け物の親玉を何とかしてしまえば万事解決ではないのか?
対処法は、事前に作品内容を聞かされているため、把握している。
問題は、どうやって近付き、どうやって何とかするのか。
近付く事は、できるだろう。敷地から出ない、門限を守る、この二点さえ押さえておけば、比較的体の自由が利くのがこの学園だ。ワクァの身体能力を持ってすれば、自由が利く時間のみを使って近付き、対峙する事は可能だろう。
では、どうやって何とかするか?
当然の事だが、学園の敷地に入る際にリラは預けてしまっている。武器は、現地調達するしかない。
学園内であれば、何を剣の代わりにする事ができるだろうか?
それなりの長さを持つ物と考えると、箒あたりが妥当だが、耐久性に不安があり過ぎる上に、殺傷能力がほとんど無い。
こういう時にヨシがいれば、色々とアイデアを出してくれるのだろうが……。
思わず、二度目のため息が出た。
その姿が、傍目には愁いを帯びているように見えたのだろう。周りにいた者達が、ほう……と意味合いの違うため息を吐いた。
それが聞こえたワクァは、やはり早く何とかするべきか、と武器調達の方法を更に真剣に考え始めた。
彼がヨシから半端に受けた影響をベースに武器を入手してボス戦に挑むのが先か、誰かが助けに入るなり企画が終了するなりで作品世界を後にするのが先か。
それは、今の時点では誰にもわからない。