葵×ガラクタ道中拾い旅
「……いつもこうなの?」
げんなりした顔で問う葵に、ヨシは「まぁねー」と涼しい顔をして肯定した。
周りには、盗賊と思わしき男が数名。見た目通り、金品が目的のようだ。
「けど、いつもと比べてやる気があんまり感じられないわねー。いつもならもうちょっとこう……高値で売れそうな美少女発見! って感じで目を光らせてるんだけど」
「……それ、ワクァに言わないようにね……?」
呆れながらも釘を刺し、葵は懐から短刀を取り出した。その柄に符を貼り、唱える。
「疾く伸びよ! 急急如律令!」
唱えるや否や、短刀の刃が伸び、一見して太刀のような長さになった。それを見て、ヨシは「おぉー」と拍手している。
「不思議ねぇ。それ、どういう仕組みになってるの?」
「……仕組みを訊かれると……」
どう答えて良いのかわからない葵である。……と言うか、今は一応盗賊に襲われている状態なのだが、こんなのんびりとした会話をしていて良いのだろうか。
そう指摘すると、ヨシは「そうね……」と呟きながら鞄をまさぐった。出てきたのは……穴の開いたフライパンである。かなり大きな穴だ。それこそ、人の頭一つ分ぐらいは通ってしまいそうなほどに。一応、穴の側面はやすりでもかけてあるのか、綺麗に均されている。
「……それ、どうするの?」
当然と言えば当然の疑問に、ヨシはニコッと笑って見せた。
「それじゃあ、実演を交えて解説しましょうか」
言うや否や、背後から迫ってきていた盗賊の頭に素早くフライパンの穴を引っ掛けた。そして、思い切り横へと振り抜いて見せる。
首の側面に突然の衝撃を与えられた盗賊は、ぐぇっと叫び、そのまま崩れ落ちた。
ヨシは盗賊の首からフライパンを外すと、振り向き、やはり笑って言った。
「まぁ、こんな感じに?」
「怖いよ!!」
堪えられなかったのか。葵が顔を引き攣らせながらツッこんだ。
そのツッコミに対して、ヨシは「おっ、新鮮な反応ねぇ」などと言って笑っている。背後では、盗賊達が警戒レベルを最大限まで上げた上で、及び腰になっている。
これは確かに……慣れれば頼もしいが、慣れるまでが大変だ。
引き継ぎ時、本来の主人公に言われた注意事項を思い出し、葵は苦笑しながらも、短刀を構えて駆け出した。
とりあえず、一緒に戦ってみれば見え方も変わってくるかもしれない。
そんな感じで共に暴れ始めた二人に、盗賊達が悲鳴をあげるまで……それほど時間はかからなかったという。