初瀬誠×平安陰陽騒龍記
「ねぇ、誠さんって職人なんだよね? 今ここで、何か作れる?」
好奇心で目を輝かせながら、紫苑が問うてきた。千年前で、電気は勿論、工具も使い慣れた物が無い時代。どこまでできるかわからないが、こんな目をされたら作ってみたくなってしまうではないか。
「えぇっと……物にもよりますが……。ちなみに、何か作って欲しい物があるんですか?」
誠の問いに、紫苑は「うん!」と力強く頷いた。
「変身アイテム! 作れないかなぁ?」
言われて、誠は何とも言えない顔で周囲を見渡した。虎目が目を逸らしている。やはり、千年前の人間である彼女にアイテムなどというカタカナ語を教えたのは、未来千里眼なる能力を持つこの猫のようだ。
「お前が変身して、どこの層にウケるんだよ。需要を考えろ、需要を」
その師匠は師匠で、やはり虎目から余計な知識を得ているのか、メタな事を言っている。
隆善の言葉にしばしムッとした後、紫苑は「じゃあ」と次なる候補を持ち出した。
「鬼が近くに現れたら、ひとりでに鳴って教えてくれる鈴とか」
「自分で察知しろ、馬鹿弟子が」
一刀両断に切り捨てられ、紫苑は更にムッとする。
「じゃあ、師匠だったら、何を作ってもらうんですか? ちゃんと需要がある物にしてくださいよ?」
そう言われて、隆善は「そうだな……」としばらく考え込んだ。そして、誠に向かって言う。
「阿久多牟之(あくたむし)を始末するような物は作れるか?」
……阿久多牟之。漢字だけ見るとちょっとカッコ良いが、要は夏になると出現する、黒光りする通称Gの事である。
「紫苑にしろ葵にしろ、普段は妙に豪胆なくせに、阿久多牟之だけは滅法苦手ときててな。出る度にわーきゃー騒いで、うるさくて敵わねぇ。始末なり捕獲なりをする仕掛けがありゃ、助かる」
そう言う隆善の斜め後ろで、あっという間に顔を青くしている紫苑がもの凄い勢いで頷いている。これは、どうやら相当に苦手だ。
誠は、苦笑しながら早速、手渡された保護の裏に図面を引き始める。この時代に用意できる材料と道具で、どこまでの物を作れるかはわからないが、とにかく頑張ってみよう、と。
そして、同時に思った。
何故自分は、平安時代に来てまでゴキブリ駆除装置を作っているのだろう、と。