本木暦×13月の狩人



「何で俺は、異世界に来てまで本屋をやっているんだろう……?」

湧き出る疑問を隠す事無く、暦は呟いた。その横では、共に店番をしてくれているカミルが苦笑している。

ちなみに、何故本屋をやっているのかと問われれば、何か色々あった末に店番をする事になっていた、としか言いようが無い。

「……ところで、僕が言うのも何なんですけど……暦さん、ここでのんびり本屋をやっていて良いんですか? 今回の企画の趣旨は他作品の世界を体験する、だったと思うので、そろそろ狩人が仕掛けてくるころじゃないかと思うんですけど……」

心配そうに問うカミルに、暦は「うーん……」と唸った。

「たしかにそうなんだけど、じゃあどうするのかって言われると、俺に何ができるかわからないんだよね。じゃあもういっそ、何か起こるまでいつも通り過しておこうかなって」

その言葉に、カミルは絶句した。その態度は、あまりにも余裕に満ちていて……そして、あまりにも場馴れし過ぎていた。彼は一体、普段どのような環境で活動しているのだろうと、疑問を抱かずにはいられない。

「それにしても、十二月が終わったらまた始まるって……こっちの世界だからまだ良いけど、元の世界では絶対に経験したくないなぁ……」

苦笑する暦に、カミルは首を傾げた。そんな彼に、暦は「ほら」と言葉を続ける。

「十二月って、本屋の繁忙期だから。クリスマスプレゼント用にラッピングしたり、年賀状のデザイン本を品出ししては売り、品出ししては売り……冬休みの読書感想文用の本を探しに来るお客の相手もしなきゃいけないし、手帳やカレンダーもどんどん新しいのが入ってくるから売り場の整理が大変だし。……絶対に、何度も繰り返したくない」

正直、カミルには暦が何を言っているのか、さっぱりわからない。だが、大変そうだという事は何となくわかった。

「……暦さんにとっては、狩人に追い回されるよりも、氷響月の本屋で働き続ける方が試練になるのかもしれないですね……」

カミルのその言葉に、暦は「えっ?」と目を瞬かせる。そして、「そうかもね」と言いながら苦笑するのだった。