13月の狩人








第三部







15








 かちゃかちゃと、金属のぶつかり合う音が室内に響く。

 自分の工具を持ったテオがカミルの部屋を訪ねてきて、既に結構な時間が経っている気がする。

 机の上に工具と部品を綺麗に並べ、テオが真剣な面持ちで部品を組み立てたり、回路を繋いだりしているのを、カミルは横で見守った。

 昔の自分を褒めるようで面映ゆいが、少々手際が悪い点を除けば、問題無く作業ができているように思う。

「……上手いじゃない。回路の繋ぎ方も丁寧だし、削ったり穴を開けたりするのも無駄が無いし。スピードがちょっと遅いかもしれないけど、雑な仕事をするよりはずっと良いと思うよ」

 何も言わないでいるのも間がもたないので、思うままに褒めてみた。テオは照れるような喜ぶような表情をしているが、昔の自分であると思うと、やはり面映ゆい。

「ありがとうございます。けど、カミルさんに貸して頂いた道具のお陰かも……。すごく使い易くて、手にもなじむ感じがしますし……」

 テオは自分の工具を持ってはきたが、必要最低限にも満たない数しか所持していなかった。十三月に招かれて、何が何やらわからず慌てて工房を飛び出してきてしまったからだろう。それに加えて、多くの工具を持ち歩くのは、テオには重過ぎたそうだ。

 それは、とてもよくわかる。カミルも以前、非力故に工具をいくつも持ち歩くのが辛いと感じていた。だからこそ、先の十三月までに〝いくらでも物が入って、重さを感じさせない鞄〟の魔道具を作った。

 今でも、この鞄はカミルが作り上げた魔道具の中でも一番の出来で、最も便利な魔道具だと思っている。実際、この鞄の存在を知って工房に注文してくる客も、多くはないが後を絶つ事が無い。

 折角だから鞄の作り方を教えてみようかとも思ったが、それは流石に口を出し過ぎであるように思う。十三月は一晩の夢とは言え、現実の世界に与える影響が大きいかもしれない、という事は先日のテレーゼやフォルカーの姿を見た事で実感したばかりだ。

 だから、ただ見守り、息が詰まったりしないように軽く言葉をかける程度に留める。……と決めたのは良いのだが。

 ただ見守っているというのは、自分の体や頭を動かす必要が無いからか、眠くなりがちだ。テオの作業に危なっかしくて冷や冷やするような点は無く、かちゃかちゃという少しテンポが遅めの金属音が眠気を誘う。昨日までの疲れも、まだいくらか残っている。

 かちゃかちゃと響く音が、次第に遠くなり始めた。











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