13月の狩人








第三部
















「それで、今日はどうしたの?」

 騒動がひと段落し、テレーゼが淹れた紅茶を飲みながら、カミルは問うた。

 テレーゼは白衣替わりの白いローブから、馴染みのある暗い色のローブに着替えている。白衣のままだと、落ち着かないそうだ。フォルカーはひとっ走りして押し掛け弟子を家に送り届けてきたのだが、それで空腹になったのか茶菓子を貪るように食べている。

「そういや、理由も言わずに呼び出しちまったんだよな」

「えぇ。〝たまにはサプライズも良い〟って、二人で話し合ったのよね」

 そう言って頷くと、テレーゼは棚から小さな包みを取り出した。そして、カミルに手渡してくる。

「一ヶ月遅くなっちゃったけど、私とフォルカーから誕生日プレゼント。気に入ってもらえたら、嬉しいわ」

「えっ? いや、そんな……誕生日にはちゃんと祝ってくれたじゃない! それが、何で今……?」

 目を白黒させるカミルに、テレーゼとフォルカーは楽しそうに笑う。

「だってカミル、私達の誕生日には、こんな素敵な物をくれたじゃない」

「俺達だけ何もやらないのは、悪いだろ、やっぱ」

 そう言ってテレーゼは己の後頭部を、フォルカーは左腕を示して見せる。

 テレーゼの髪を留めているのは、白い花のバレッタ。花降月に降る花を拾い集め、特殊なコーティングをして固めた物を飾りとしている。花降月の花は、触れると魔力として吸収され、消えてしまう。そうならないために魔道具の手袋を制作するところから始めたものだ。今のテレーゼには必要の無い効果かもしれないが、危機が迫ると衝撃を受ける前に結界を張る能力を備えている。

 フォルカーの左腕には、同じく魔道具のブレスレット。テレーゼのバレッタと同様、危機が迫れば結界を張ってくれる。戦闘中、ついうっかり剣を持っていない左腕で顔や体を庇おうとしてしまう事がある、と聞いたために制作した。

 ただの誕生日祝いではない。カミルとレオノーラを、二年もの眠りから目覚めさせてくれた事への礼と。そして、二人にはこれからも無事でいて欲しいという願いを込めて作った物だ。

 昨年はまだ思うように体が動かず、作れなかった。一年リハビリを続けて、調子が戻ってきたために、今年作る事が叶ったのだ。

 そのリハビリにも、二人はよく付き合ってくれた。本当に、感謝しか無い。それなのに、こうして誕生日のプレゼントまでくれるとは。

 開けてみれば、小さな箱に手編みのアミュレットが納められている。先端に、小さな牙と羽根が付いていた。そしてよく見ると、羽根は飾りだけではなく、アミュレットそのものにも編み込まれているようだ。

「これ……狼牙鳥の羽根と牙……?」

 目を丸くするカミルに、テレーゼとフォルカーは少し誇らしげに笑ってみせた。

 狼牙鳥は、嘴の中に狼のような形の小さな牙が生えているという変わった鳥だ。個体数は非常に少なく、モンスターの多い南の砂漠でもお目にかかれる事は滅多に無い程珍しい。

 出会う事ができた者、その羽根や牙をお守りとして持つ者には、幸運が舞い込むと言われている。そのため、魔道具の材料にと望む者も多いが、前述の通り滅多にお目にかかれないモンスターであるため、その羽根や牙は材料としての市場価格が非常に高い。そのため、狼牙鳥の牙や羽根を使用した魔道具は高額になりがちだ。

「フォルカーが狩ってきたのよ。折角だから良い材料で、ってこだわって。最初から狼牙鳥一本狙いにしたものだから、材料の調達が遅れちゃったんだけど……」

「けど、見付ける事ができたんだぜ? すごいだろ! ……で、羽根と牙を採取して、テレーゼにこれを編んでもらったんだ」

 言われて、カミルは再びアミュレットに視線を落とした。手編みとは思えないほどきっちり丁寧に編み込まれているあたり、テレーゼの性格が出ている。

「魔道具みたいに、具体的な効果があるわけじゃないけど……」

「テレーゼがきっちり作ってくれたから、アクセサリーとして使えるんじゃねぇかな?」

 二人の言葉に、カミルは思わず頬が緩んだ。貰ったアミュレットを、早速左手首に巻き付け、ブレスレットのように腕を飾る。

「……うん、すごく着け心地が良いし、これだけで何があっても心が晴れそうな気がするよ。ありがとう、テレーゼ、フォルカー。……大切にするから」

 そう言うと、テレーゼとフォルカーは嬉しそうに笑って見せる。それにつられるように、カミルも笑った。

 そして、笑いながら……やはり、少しだけ胸が痛んだ。

 視界の隅に、白い妖精が見えた気がしたのは……痛みが見せた幻想だろうか……?











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