13月の狩人
























時は、あっという間に流れていく。早いもので、今年も残すところあと僅か。

氷響月の三十二日。新年を祝って食べるためのプディングをオーブンから取り出し、テレーゼは居間へと運んだ。

「ギーゼラ先生、プディングが焼き上がりましたよ」

「ありがとう。じゃあそれはテーブルの上に置いて、冷ましている間にこちらの部屋の片付けを手伝ってもらっても良いかしら?」

「はい」

遠くから聞こえた声に快く返事をして、プディングには虫と埃を避けるための布巾をかける。テレーゼは料理用のエプロンを脱ぐとギーゼラが片付けに着手した部屋へと向かった。入ってみれば、部屋の中は水晶玉に埃だらけのイモリの黒焼き、枯れてしまった薬草に、何かの獣の頭蓋骨などが所狭しと散乱し、足の踏み場も無い。

齢七十になろうとしている魔女ギーゼラは優しい師匠なのだが、片付けが下手くそな事だけが欠点だ。苦笑をして、テレーゼは散らかっていた物をどんどん片付けていった。

大きな物は棚に入れ、細かい物は箱にまとめてから仕舞い、物が粗方消えたところではたきをかけていく。途中で、遂に邪魔に感じたギーゼラを部屋の隅に追いやってしまった。ギーゼラは特に怒る様子も無く、「あらあら」などと言いながらテレーゼの仕事ぶりを眺めている。

やがて、部屋は散らかっていたのが嘘であるかのように綺麗に片付いた。心なしか、床が輝いて見える。

「お疲れ様。本当にテレーゼは掃除が上手いわねぇ」

ほわほわとした空気を纏いながら、ギーゼラは嬉しそうに部屋を見渡している。少し照れながら、テレーゼはギーゼラを部屋から押し出した。

「先生、ちょっと休憩にしましょうよ。私、お茶淹れますから!」

「そうねぇ。お願いしようかしら」

嬉しそうに言うギーゼラに、テレーゼはやはり嬉しそうに頷いてキッチンへと向かった。こうして、優しいギーゼラに魔法を教えて貰いながら日常生活を送る事が、テレーゼは楽しくてたまらない。

それなのに、いつまで経っても魔力は増えず、魔法も上達せず……。それが、テレーゼはもどかしい。早く上達したい。上達した姿を見せて、ギーゼラを喜ばせたい。

そんなテレーゼの気持ちを知ってか知らずか。ギーゼラはテレーゼが淹れたお茶を一口飲むと、ほう、と息を吐いて幸せそうに言った。

「美味しいわ。テレーゼは本当に、掃除も料理も、何でも上手ね。魔法だって、魔力さえ足りていれば、どんな物だってすぐに覚えてしまうし。優秀で可愛い生徒がいて、私は幸せだわ」

「先生……」

思わず、ティーカップを両手でギュッと握り。知らず知らずのうちに暗い面持ちになりながら、テレーゼは呟いた。ひょっとしたら、泣きそうな顔になっているかもしれない。

ギーゼラは、もう一口お茶を飲むと、再びほう、と息を吐いてからにこりと笑った。立ち上がり、テレーゼの横に立つと背中を軽く叩く。

「花降月になれば、祝福の花が天上から降ってくるわ。花に触れれば触れるほど、魔力が増えるって言われているのは、知っているでしょう? 明日は二人で、たくさん花を集めましょうね。それから、これからも魔力を増やす修行を頑張りましょう?」

「先生……はい、頑張ります……!」

涙を隠しながら頷いて、テレーゼはまだ熱いお茶を一気に飲み干した。心の中で、明日からもっともっと頑張ろうと誓いながら。

氷響月が――一年が終わるまで、あと半日。










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