13月の狩人

























「十三月の狩人? 何それ?」

井戸の水を汲みながら、テレーゼは傍らで剣の素振りをする少年に問い掛けた。少年からは狼のような耳と尻尾が生えており、彼が普通の人間ではない事がわかる。獣人、なのだろう。

彼はテレーゼからの質問に答える事無く、夢中になって剣を振り回している。横に払い、見えない敵を想定して斬り上げ、飛び跳ねて振り下ろし、再び横に払って……そして剣は彼の手からすっぽ抜けた。

「あ」

ヒュオン、という風を切る音がして、剣はまっすぐに飛ぶ。そして剣は、テレーゼが水を汲んでいた井戸の井戸縄を斬り裂いた。

自由を得た釣瓶は中に湛えた水の重みも相まって、あっという間に井戸の奥底へと落ちていく。桶から飛んだ飛沫は、紅塗月も終わりに差し迫った今の空気に冷やされて非常に冷たい。思わず手で顔を覆ったのとほぼ同時に、バシャン、という水音が遠くから聞こえた。

「……ちょっと、フォルカー!」

形の良い眉をキッと吊り上げ、テレーゼは少年――フォルカーを睨み付けた。井戸脇の柱に突き刺さった剣を抜き取ると、右手で左手にパシパシと叩き付けながらフォルカーに詰め寄る。

「どうしてくれんの? これじゃあ水汲みできないじゃない! それと、質問に答えて! 自分で話振っておいて、勝手に終わらないでよ!」

「悪い悪い! ……えーっと、何の話だったっけ?」

全然反省していない様子のフォルカーに、押し付けるように剣を返しながら、テレーゼは「もう!」と吐き出すように叫んだ。

「だから、十三月の狩人って何? って話!」

剣を鞘に収めながら、フォルカーは「あぁ」と思い出した様子で頷いた。

「そうそう、その話な。十三月の狩人。……うん、こないだ、じいちゃんから聞いたんだけどよ」

そう言って、フォルカーは語り出した。彼の祖父から聞いた、この世には有り得ぬ十三月に現れる狩人の話を。











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